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「あれ、なんでアリスがいるんだ?」
そう言われたのは、新幹線に乗ろうとしたときだった。集合から新幹線が来るまで時間があったので、私たちは駅のホームで雑談をしていた。電車が到着したのを見て立ち上がったとき、千翔くんがおもむろにこちらを向いて言ったのだ。
「えっ、師匠、今まで気付いてなかったの?」
「あ、あー」
千翔くんは目を逸らして曖昧な返事をする。気付いてなかったようだ。
「いちゃだめですかね」
「いや、別に」
私はその綺麗な顔をひっぱたきたくなる。
「ああ、師匠、あんたアリスに笑いかけられないタイプの男だな」
「それはどういうタイプ?」
楽しそうに聞いたのは梓馬くんだ。
「嫌われてるやつ」
にやっと意地悪そうに言う圭貴に、千翔くんははっと鼻で笑うだけだ。
「まあ、好きと嫌いは裏返しだからね」
「圭貴、勝手に分析しない」
意味ありげに言う圭貴に、私はとうとう口を出す。
「あーちゃん、師匠なんか放っておいて、早く座ろうよ」
たるとが私を引っ張って新幹線の中を進む。
座席はあらかじめ部長に、ここからここならどこでもいい、と番号を教わっていた。その付近へ行くと、すでに何人かは座っている。たるとが近づいていったのは、1年女子が固まっているところだった。
「宿の部屋、学年ごとらしいからさ、今のうちに仲良くなっといた方がいいでしょ」
たるとが軽く振り返ってこっそり言った。確かに、いきなり1つの部屋に詰め込まれるよりは、新幹線で親睦を深めておいた方がいい。ほとんど知らない人ばかりなのだから。
たるとが女子の1人に、親しそうに声をかける。彼女たちと廊下を挟んだ隣に、たるとと私で向かい合うように座る。廊下の向こうには、先ほど見た井上さん、斜め前に横並びに陸上部の2人がいた。
新幹線が動き出すと同時に、井上さんが肩の上で切り揃えた髪を揺らして、こちらを見てきた。
「初めまして。真由ちゃんに誘ってもらった井上晴香です。よろしくね」
他人と接することを恐れない人の笑みだった。圭貴と同じ人種だ。
たるとが名乗り返したので、私も続く。井上さんの正面に座っていた子が私を見る。
「たるとちゃんから話は聞いてたよ。鈴木真由です。よろしく」
「高橋百合子です。よろしくね」
井上さんに続いて名乗った2人は、陸上部と言われて納得できるような、焼けた肌をしていた。日頃から運動している人故なのか、動きがテキパキして見えた。
3人とも自分の周りにはいないようなタイプに見えたが、いずれも爽やかな笑顔で好意的な態度だったことで、私はいくらかほっとしていた。
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