圭貴・表情

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圭貴・表情

 圭貴(けいき)は新幹線の中で、少し困った状況に(おちい)っていた。4人向かい合う形の新幹線の席で、圭貴の前には、朝霧高校陸上部の里見千翔と水戸梓馬が座っている。  他の1年男子と思われる廊下の向こう側からは、和気あいあいとした会話が聞こえてくる。しかし、こちらは新幹線が出発してから、一向に会話がない。圭貴はコミュニケーション能力には自信があるのだが、どう切り出そうかと迷って、前の2人をちらりと見る。  同じく何を話そうかと困っているような梓馬(あずま)はまだいい。問題は、貰ったラブレターは見ずに破る冷酷な師匠と噂の、千翔(ちか)だった。  彼は、たるとから聞いていた印象と(たが)わず、無愛想だった。長い前髪から覗く目を細め、頬杖をついて窓の外を眺めている。その横顔は、よく見れば端正なものだった。そして、どこかで見たことがあるような気がした。 「圭貴くん、知らない人に囲まれてて大丈夫?」  第一声を発したのは、梓馬だった。彼のことは、たるととアリスが、ひたすら良い人だと言っていた。それも、この気遣うような雰囲気だけで納得できる。 「大丈夫。俺、人と仲良くなるスピードには自信あるから」  圭貴はにっと笑って見せた。梓馬もほっとしたように笑顔を返してきた。一度話し出せば、初対面で緊張していた空気も、(やわ)らぐ。梓馬はそのまま会話を続ける。 「圭貴くんとたるとちゃんは、有里さんと幼馴染みって聞いたよ。朔先輩も知ってるの?」  有里(ありさと)と言われて一瞬誰だか分からなかったが、その後に出た名前で頷く。 「朔兄(さくにい)のこと知ってるんだ!小さい時はよく遊んでたよ。それ以来まだ会ってないんだけどね。やっぱ、大人になってもイケメン?」 「うん、すごく綺麗な人だよね。有里さんと兄弟って知った時はびっくりしたけど」 「そうなの?結構分からない?」 「え、どうして?」 「朔兄とアリスって似てるじゃん」 「⋯⋯そうかな?」  圭貴と梓馬は顔を見合わせて首を(かし)げる。子供の時と成長した時との違いだろうか、と圭貴は思う。 「千翔はどう思う?」  梓馬が、ずっと窓の方を向いていた千翔を見た。彼は、少しだけ顔を傾けてこちらを振り返る。 「何?」 「有里さんと朔先輩が似てるかどうかって話」
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