ふたりの家

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
「夏休み中は、ずっと家にいるの?」  2人で向き合うように座ると、私は朔と目を合わせずに尋ねた。朔は質問の意図が分からなかったように、首を傾げる。 「うん。生徒会の仕事とか文化祭の準備とかで学校に行くことはあるけど」  答えてから、私が何を聞きたかったのか分かったようだ。彼はくすりと笑った。 「もう他の人のところには行かないから、安心して」  私は恥ずかしくなって小さく、そう、と言って朝食を口に運ぶ。 「もうそうする必要はないし、なんだかそんな気も起きないしね」 「亜季さんは?」 「え?」 「いや⋯⋯」  自分でも何を聞きたいのか分かっていなかった。少し考えてから、朔を見る。 「好きじゃなかったの?」  朔は、私がそんなことを聞くとは思わなかったのだろう。目を見開いてこちらを見て、考えるように視線を逸らす。 「亜季さんとは4ヶ月も一緒にいたって聞いた」 「そう、だね。一番長かったかも」  朔は考え込むように斜め下を見つめている。戸惑っているようにも見えた。箸を持つ手は完全に止まっている。 「好きって、よく分からないな」 「はぁ?」  思わず半眼で朔を見てしまった。何人もの女性と関係を持ってきたであろう彼が、そんなことを言うなんて。 「まさか、目当ては体だけ⋯⋯」 「いや、いやいや!」  軽蔑した目になる私に、必死に首を横に振る。 「好きだったよ、亜季ちゃんも、他の人も。でもなんというか、アリスの方が断然大事だったし。アリスも言ったでしょ、色んな好きがあるって。ずっと一緒にいたいと思うような”好き”は、今まで感じたことはないかもってこと」 「だから数ヶ月で別の人に乗り換えてたの?」 「乗り換えって⋯⋯。まあそれは、半分意図的かな」 「意図的?」 「うん。長くいると、自分も相手も情が移っちゃうでしょ。そしたら、アリスのところに帰れなくなっちゃう」  私は思わず目を伏せる。顔が少し熱かった。あんなに家を離れていたのに、ずっと帰ることは前提だったのだ。 「私のことが大好きなのは分かったけど」  朔がふっと笑う気配があったので、目を開けて睨みつける。 「本気で好きになった人はいないってこと?」 「逆に、アリスはあるの?」 「そりゃ、あるよ。人並みには」  朔が心底意外そうに目を見開いているので、私はにやっと笑う。 「なんかショック」 「だって、私たちいくつだと思ってるの」  そして、朔はどれだけ(こじ)らせていたのか。口を尖らせている朔が可愛く見えて、つい笑ってしまう。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!