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「もう亜季さんには会わないの?」
「さっきから、なんで亜季ちゃん?」
指摘されて気づく。自分でも、どうしてだろう、と考える。しかし考えるまでもなく、直接知っている人が亜季さんしかいないからだ、と思いつく。
「情が移ったのかも」
彼女の朔への想いも、悲しみも聞いてしまったから。
朔は私を見て、ゆっくりと数回瞬きした。
「そうだね⋯⋯。亜季ちゃんとは、もっと普通の出会い方をしたかったなとは、思うかな」
伏し目がちにそう言う朔を見て、そうか、と思う。確かに、色々な好きがあると言ったのは私だ。どういう好きであれ、朔が、亜季も他の人も好きだったことは変わらないのだ。
「まあ、今はアリスと一緒にいたいから」
朔はぱっと顔を上げる。明るい表情だ。
「夏休みはずっと一緒にいようね」
朔の満面の笑みに、私は顔をしかめる。
「言い方がキモい」
「もう、嬉しいくせに」
「嬉しくない。ていうか、私は部活あるから」
「寂しいなぁ。そう言って、また生徒会室に行く気でしょ」
「朔がいない時にね。⋯⋯あ」
私は生徒会と聞いて、あることを思い出す。正確には、生徒会に居座っているたるとと千翔くんを思い出したことによって。
「合宿もあるんだ」
私はにっと笑って言う。こちらには予定がたくさんあるアピールのつもりだったが、朔も何か思い出したように、ああ、と言う。
「僕たちもあるよ。生徒会の親睦会的な」
「え、そうなの?」
一瞬楽しそう、と思うが、思い浮かべたのはいつも生徒会室にいる人たちであり、いつも生徒会室にいる人の半分くらいは生徒会員ではなかった。実際の生徒会メンバーを思い浮かべると、満先輩と京介くんだけで話している様子しか想像できなかった。
しかし、朔も合宿があるならば尚更、家で2人でいる時間が減る。
「いつなの?」
思わず笑顔で言ってしまった。朔は、慌てて真顔になる私には気づかず、卓上カレンダーを見る。
「8月の3日から4日間だったかな」
「え」
私も思わずカレンダーに目を向ける。確かに、8月の最初は一番合宿に行きやすい時期だが⋯⋯
「全く一緒」
私の行く合宿も、8月3日から4日間だった。
「それ、もしかして、陸上部の?」
私は朔をぱっと見る。
「そう。どうして知ってるの?」
「千翔ちゃんたちが話してたから。アリスはどうして陸上部の合宿に?」
「たるとに誘われて」
もちろん私は陸上部ではない。誘われたのは、ちょうど昨日だった。
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