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合宿の始まり
合宿の日は、いつにも増していい天気だった。真夏の今は、この天気が嬉しいを通り越して恨めしい。しかし、私は朝から気分が上がっていた。
「いいなぁアリス」
軽く鼻歌を歌いながら荷物の最終確認をしていると、後ろから朔が言ってきた。
今日から4日間は、この面倒くさいシスコン兄を見なくてすむ。
「いいなって朔も行くんでしょ、これから」
「そうだけど、だってたるちゃんと圭ちゃんもいるんでしょ?久しぶりに遊びたいな。このあいだはどうして誘ってくれなかったのさ」
佐藤家の母、佐江さんの夕飯をご馳走になった日のことだ。翌日にその話をしたら、行きたかったと拗ねて大変だったのだ。
「朔がいるとうるさいからだよ。私、先出るからね」
「今日もつれない⋯⋯」
眉を下げる兄を置いて、家を出る。
集合場所は、最寄り駅から電車で数十分で着く駅だった。その駅に着くと、いち早くたるとと圭貴の姿を見つけられたのでほっとした。まわりに何人か、陸上部らしき人がいた。
双子が一緒にいるのは嬉しいが、他はほとんど知らない人が多い。圭貴のようにコミュニケーション能力が高いわけでもない私は、その点が少々不安だった。
といっても、一応陸上部で知り合いは何人かいる。
「佐藤さん、有里さんも、おはよう」
「梓馬くん」
数少ない知り合いの顔が見えて嬉しくなる。前回の事件以来、彼とは気安く話せるようになった気がしていた。
梓馬くんは神社の子だから袴が似合いそうだと勝手に想像していたが、私服は普通のジーパンにTシャツだった。しかしさすが、爽やかな感じが良く出ている。
「え!アリスが男に笑いかけてる!たると、こいつ誰?」
「別に笑いかけてもいいでしょ⋯⋯」
「ちょっと圭ちゃん、ガン飛ばさないの。同じクラスで同じ陸上部の水戸梓馬くんだよ。梓馬くん、ごめんね。これが私の双子の兄の圭貴」
双子はどこでも騒がしい。早速集まった人の中でも浮いている。
「圭貴くん。水戸梓馬です、4日間よろしくね」
梓馬はぶれない優しさで手を差し出す。
「梓馬くん、よろしく!」
圭貴もまたさわやかに挨拶をする。圭貴は宣言通り、皆と仲良くなるつもりらしい。他の人にも声をかけに行ったりしている。
集まる人は段々と多くなっていた。参加者は男子10人女子9人と聞いた。丁度いい人数に思えた。
先輩は全く知らなかったが、同じ1年生は見たことのある人がちらほらと見える。特に、陸上部でない、私のような参加者は一目で分かった。ぱっと見の体格と日焼け具合が、明らかに周りと違うからだ。
1人は、何人かの女子に囲まれている、井上晴香さん。
こちらから顔はよく見えないが、タンクトップから見える腕が白く細いのが印象的だった。良くも悪くも目立つと有名な彼女だが、私はその言動を直接見たわけではないので、詳しくは知らない。
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