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相楽聡くん。
生徒からのきちんとした自己紹介はなかったので、名簿と席を照らし合わせて、彼の名前を覚えた。
なんでもない名前だったけれど、今ではこの漢字をどこかで見かけるたびに胸がドキドキする、特別なものになった。
「きゃははっ、聡、またやってんのー?」
「懲りないね、いっつもだれかにノート見せてもらってるじゃん」
わ、出た。
ここ最近は特に相楽くんに接近している、女子のAとBが後ろからやってきた。名前は……赤崎さんと、寺本さんだったかな。教育実習生として、担当のクラスの子の名前を把握しなきゃいけないのがかなりきつい。全員の顔と名前が一致する、明確に覚えた頃にはもうわたしはここにいないよ、きっと。
それにしても、Aの高笑い、結構耳障りだったりするんだけど、みんなは気にしないのかな。
それとも、言いたくても言えないとか? とにかく朝からそのテンションの高さは異常だよね。相楽くんに会えて、そうなっちゃうというなら、理解してあげないこともないけど。
この高校、偏差値でいうなら可もなく不可もなく、中の中くらいだけど、相楽くんの周りに集まるひとたちって、失礼だけどちょっと頭悪そう。正直言って。
そんなひとたちと絡んで、自分の価値も下げちゃうなんて……
いい。いいよ。顔がよければ、愛嬌で生きていけるし、おとなになってからでも勉強しようと思えばできるものね。
はぁ、なにをしてもかっこいいなんて。相楽くんって本当に罪深い存在。
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