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教室に入る前に一度深呼吸し、中へ足を踏み入れると、スマホをいじってだるそうに座る相楽くんひとりだけがいた。
そっか。放課後の教室って、だれもいないものなんだ。
「……ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「べつに。早く終わらせたいのはあるけど、せんせーにもいろいろ準備があるだろうし」
あら、いい子。相楽くん、どれだけ理解力があるの。
こういうひとには、上の……おそらく女のきょうだいがいるとみた。
「じゃあ、これ渡すから、できるところはやってみて」
「わかりましたー」
相楽くんが座る机の上に受け取ったプリントを置く。
「……って、プリントの枚数多くないスか?」
「本文書いてあるからそう思うだけ、じゃないかな?」
「ふーん。これが、種茂が言ってた、あのテキストってやつなんですか?」
「……え?」
種茂とは、彼らの担任の先生の姓である。
教育実習にやってきて一週間ほど経過したけれど、先生を呼び捨てしている生徒を目撃するのはこれが初めてのことで少し驚いてしまった。
でも、相楽くんがそういう呼び方するの、すごくいい。似合う。
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