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「わかった。いいよ。あと30分で全問片付けてね」
「やった。それじゃせんせー、さっそく質問です」
「……少しは自力でやろうとしてみよう?」
わたしが高校生の頃に、種茂先生と特訓したこのテキストは、難易度こそ少し高めだけれど、とてもわかりやすい。
中・高の古文の授業は、文法ばかりで正直つまらない。それを解消してくれるのが、これ。そんなにいいものなら、どうして使わないのか、と言うと、先にも言ったとおり、難しいので、授業で進めるには授業のコマが足りないらしい(先生談)。
だから、高みを求めるひと意外には、知れ渡らない、宝の持ち腐れ状態になってしまっている。
「……終わった」
「お疲れさまでした」
相楽くんは、当初予定していた時間から、5〜6分ほど遅れてようやく空欄を正解で埋めることができた。
「じゃ、これでせんせーの全部がおれの……」
「だ、だめ。30分で片付けてって言ったのに、数分遅れたから」
「はぁ?! そんなの誤差じゃん。ずるい」
「ずるい、って言われても……約束は、約束だし」
わたしは、どうにかこの視線から逃れたかった。
ずっと、憧れていた彼に見られることは、どうやらわたしにとっては毒だ。できるのは、いい思いばかりじゃない。
もしわたしが、彼と対等な立場……例えば、同級生や1歳違いの先輩後輩とかであれば、とっくに折れていたと思う。教育実習生でも、"先生"という仮面を被って接していられるから、なんとか平静を保てているだけだ。
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