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写真を趣味にするようになったのは、いつからだろう。
一人で食事を済ませた夜。私はパソコンをかちかちいじりながらため息をついた。綺麗に編集しなおした画像を、フォルダに分けて並べていく。本当はきちんと紙媒体にしたい気持ちもあるが、内容が内容だ、さすがに写真屋さんに持っていくわけにもいかないだろう。下手な誤解を招くのも困る、そんな内容だ。
写真を撮影し、加工し、自分だけのフォルダに保存して眺めて楽しむ。趣味というより、それはストレス発散の手段だった。
「あ」
ぶぶぶ、と携帯が震える。見れば、LINEのメッセージが二件来ていた。
一つは別部署の係長である大竹政直。有名なセクハラオヤジで、なんと自分を含め若い新入社員の女子にはみんな飲み会のお誘いLINEを送りつけてきているのだという。一度、これも付き合いと思って一緒にいった女子が、絡みに絡まれて泣きながら帰ったことがあったらしい。こいつも長嶋同様“死ねばいいのに”な人間の一人である。
当然、こっちは未読スルー安定だ。大事なのはもう一通の方。
『今日はごめんね』
月哉だった。スタンプもなく、ただその一言のみ。本当に疲れているのが見て取れて、不安よりも心配が勝った。
『大丈夫、気にしてないよ』
私は即座に返信する。
『ただ、ほんと顔色悪かったから心配してる。その、私が原因なら言って欲しいな。悪いとこあったなら、直すし』
『ほんとごめん。沙世のせいじゃないから、断じて。ただちょっと悩んでることがあるだけなんだ』
『悩んでること?なに?』
『えっと……』
そこで、流れが途切れた。えっと、と彼が打ちこんでから続きがちっとも返ってこない。長文を打っているせいなのだろうか。
『ごめん、大したことじゃないから』
何分も過ぎて、やっと来たのはそれだった。長考していたわりにそっけない文面である。
『ただ……しばらく一緒に帰るとか、お互いの家に行ったりデートするとか、そういうのはナシで。迷惑かけたくないんだ』
『つまり、私に迷惑がかかりそうな何かが起きてるってこと?』
『そんな深刻なことじゃないよ。おやすみ』
「あ、ちょっと!」
思わずリアルで声を上げてしまった。強引に会話を打ち切られてしまった感。多分LINEそのものを閉じてしまったのだろう。すぐに返信したが、既読さえつかない。本当に眠ってしまったのかもしれない。
――私に迷惑がかかる、って。
しばらく呆然と、沈黙したスマートフォンを見つめる。
――何があったっていうの、月哉。
嫌われたわけではないのだろう、恐らくは。でも、デートも何もかもできなくなるとはいったいどういう状況なのか。何か重大な事件が起きたとしか思えないのだが。
――嫌な予感が、する。
彼の気遣いを、無駄にしてしまうかもしれない。
それでも私は、彼の身に何かが起きているのか確かめるべく、行動を開始することを決めたのだ。
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