なぜ、なぜ、なぜ。

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「ええー、何で怒ってるの。私達付き合ってるんでしょ?」 「いつのこと言ってるんだよ、夏実(なつみ)!お前とはもう終わったって言っただろ。出てってくれ!!」  夏実。聞いたことのある名前だった。以前どうしても気になってしまって、彼に今まで付き合ったことのある人はいるか?と尋ねたことがあったのである。本人がやや渋い顔で話してくれたのは――大学時代、自分の前に付き合っていた彼女と酷い別れ方をしたというものだった。何でも、嫉妬が酷すぎて付き合いくれなくなったのだという。女子どころか男子の友達と話していても割り込んできて邪魔をしてくるし、学校で教授と課題について話していてもどこからともなく現れて妨害してくるという粘着ぶり。あまりにも病的だったので、付き合ってすぐ別れることになったのだという。  確かその女性の名前が、夏実、であったはずだ。 「終わってなんかないもーん」  ドアの向こうから、アニメのように可愛い子ぶったような女性の声が聞こえる。大学時代付き合っていたということは、月哉と同じくらいの年であるはず。いい大人が“もん”っていうのはどうなんだろうか。死語かもしれないが、“ぶりっ子”という言葉しか思いつかない。 「あたし、ちゃんと分かってるんだから。月哉はあたしを試してるのよね?あたしが月哉のことをどれくらい求めてるか、好きなのか知りたくて冷たくしたのよね?よくわかってるから安心して。あたし、ちゃんと突き止めたでしょ?月哉が今住んでる家も、それからこの家の鍵だって開けてみせた。ここの鍵ボロいから、ピッキングとかよゆーだったし!」 「犯罪だぞ、不法侵入だ!大体、手紙もメールも……あんなに毎日毎日送りつけてきて。俺が少し社外で誰かと話してると、すぐそいつは誰だうざい殺してやるって……もうやめてくれ、うんざりなんだ!警察呼ぶぞ!!」 「そんな誤魔化さなくていいってば。そうやってつれなくして、あたしを試さないと月哉は不安なんだもんね。……ね、久しぶりにえっちしよ。あたし、月哉以外とは誰ともやってないんだから」 「そんな気なんかない、気持ち悪い!……触るな!」 「何でそんなこと言うの!」  今までねっちょりと馴れ馴れしかった女の声が、急に金切声に変わった。ドカッ!と何かがぶつかるような音がする。
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