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ああ、なんて、快感なのだろう。いつも脳内でしかできなかった、あらゆる不快感への正当防衛。現実で、ゴミのような人間を実際に殺すことができる。理性のリミッターが外れてしまえば、これほどまでに爽快なことはない。
私が力任せに殴るたび、夏実の後頭部はみるみる変形していく。手足をみっともなくばたつかせる女。恐怖からか苦痛からか、やがてアンモニア臭が立ち込め始める。
汚い、と私はさらに女を殴りつけた。ゴミのくせに、これ以上月哉の部屋を汚すんじゃない。お前も女なら、もう少し綺麗に死ぬ努力をすればどうなんだ。
「死ね、死ね、死ねええええ!」
やがて、女はびくびくと全身を震わせて――動かなくなった。私は女の腰の上から降りて、女の尿と血液で汚れた衣服に僅かに目を眉をひそめる。まあ、まだ今日はシャワーを浴びる前だからよしということにしておこうか。
「さ、沙世……」
「ごめんね、月哉。……あんまりにも様子がおかしいから、家まで着いてきちゃった」
顔を血まみれにしている月哉に慌てて駆け寄り、ハンカチをでその血を拭う。結構酷い傷になっている。せっかくのイケメンが台無しだ、と思うと怒りがふつふつ煮えたぎってくる。
あの女、もう少し苦しめて殺してやればよかっただろうか。
「こんなことになってるなんて、気づかなくてごめんね。……もっと早く言ってくれれば良かったよ。そうしたら、私はこいつを殺してあげたのに」
私はにっこりと微笑んで言う。
ああ、“不愉快なゴミを消す”楽しみを知ってしまった私は、きっともとには戻れないのだろう。もう嫌いな連中の写真を隠し撮りして、ズタズタのボロボロの虐殺死体に加工してパソコンに保存する――なんて遊びでは満足できそうにない。私の中にはもっともっと、苛烈で残酷で正当な本性が眠っていたのだ。
「とりあえず、お風呂場で死体をバラバラにしよっか。山奥の絶対見つからないところにでも捨てればいいよ。結局殺人なんて、死体が見つからなかったら誰も“事件”として立証できないんだから、ね?」
私の言葉に、月哉はどうにかといった様子で緩慢に頷いた。
彼をストーカーして苦しめる女なぞ、死んで当たり前の存在だ。そして他にもまだ、死んで当然の存在はいる。この世界は、ゴミで溢れている。
――ああ、我慢なんか、しなくて良かったんだ。
さて。
次は誰を、どんな風に×してやろうか。
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