なぜ、なぜ、なぜ。

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なぜ、なぜ、なぜ。

「ごめん。……今日は、無理かな」 「……そっか」  今日は久しぶりに、残業なしで家に帰れることになった。近くのレストランで一緒に食事でもして帰らない?と付き合って二年になる彼氏の月哉(つきや)を誘う。ここのところ仕事も忙しかったし、会社以外では殆ど顔を見ることも叶わなかった。まだ同棲している段階ではないので仕方ないが、今日こそは一緒にご飯食べたりイチャついたりもできるのではないかと期待していたのである。  残念ながら、彼はにべもなくそう言って自分に背を向けた。冷たいな、とちょっとだけショックを受ける。事務の自分以上に、営業部のメンバーが疲労困憊していることはわかっていたし、それは月哉も同じだろう。だからといって、一緒にご飯を食べるくらいのことまで拒否されなければいけないのだろうか。本人が嫌なら、家まで押しかけようとは思わないというのに。 ――なんか、ここ半年ずっとこんなんかも。  歩き去っていく彼の背中を見ながら思う。仕事が繁忙期に入る前から、彼は自分に随分冷たくなっていたような気がする。仕事絡み、だけが理由とは正直思えない。疲れた顔をしてることも増えたし、うっかりミスも多くなったと部長にも心配されていたようだ。何かあったのだろうか。それとも、本当に私に愛想が尽きただけなのか。  力になりたい反面、本当に私に何か問題があるというのなら、下手な接し方は逆効果である。愛が人よりちょっと重い自覚はあるのだ。それでも、せいぜい彼に毎日一通ずつメールかLINEを送っている程度だし、ここ最近は週末にしていた電話さえ控えていた状態である。うざったくなった、と言われるほどのことをした記憶はないのだが。 ――嫌われちゃったのかな。……だったら、嫌だな。  まるで喉の奥に、重たい塊が詰まっているかのよう。鬱々とした気持ちを抱えながら、自分の机の上を片づける。  思い出すのは、彼と出逢った時のこと。新入社員として、たまたま入社式で隣の席に座っていた。出逢ったきっかけはそんな単純なことだったが、なんとなく話してみたら会話が弾むこと弾むこと。お互い不安な気持ちを払拭したかったというのもあるのだろう。式の開始時間直前まで、完全に好きなアニメで盛り上がってしまった。式が終わってからはメールアドレスを交換し、最初は楽しいオタク仲間として付き合い始めたのである。
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