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「無茶言うな!」
魔王様を倒してください。土下座して頼み込んだ相手、“異世界転生してきた勇者様”である男は。呆れたように叫んだのだった。
ちなみにここは、最南端の町の酒場である。ものすごく寒くなっているとはいえ、まだ数少ない外を出歩ける町でも知られている。北からどんどん難民が押し寄せて大変なことになっているのは、ちょっと外を歩いた俺にもすぐわかったことだ。というのも、黒い肌に黒くて長いしっぽ、二本の角という明らかに魔族とわかる外見の俺が出歩いていても見向きもされなかったからである。みんな人間同士の問題を解決するだけで手いっぱいで、攻撃的ではない魔物に構っている暇さえないということだろう。
「あのな?最北端にある魔王の城な?どんだけ寒いと思ってんだよ。つかお前らがわかってねーはずないよな、魔物が住めなくなるレベルだぞ?そんなとこ行って、俺ら人間が無事で済むと思ってんのか?」
「えー、だってお前勇者だろ?勇者なら女神様にチート補正とかいっぱい貰ってんだろ?マイナス百度の城昇るくらい余裕じゃねーの?」
「俺が貰ったチート補正は種族問わず美少女にモテモテになるってもんだけだっつーの!戦闘能力の関係でチート補正は一切かかってないから!」
え、なにその補正羨ましい。彼女いない歴三百年を超える俺、思わずジト目になる。
「何それ、俺も欲しい。だからさっきからおっぱいでかい魔族のねーちゃんがお前の腕にひっついてんのかよ、爆発しろリア充」
ちなみにそのねーちゃん、麻薬食らった勢いで補正がきいているのか、完全に目がハートになってます。おっぱおいはでかいけど魔族なので口は耳まで裂けてるしすっごい牙がさっきから見えてるし、その間からちろちろ蛇みたいな舌が覗いてて正直怖いです。勇者様、ベッドの上で食われる(性的に)じゃなくて喰われる(物理)になってないといいのですが。
「まあそれはいいわ。……いやよくねーけど。ってそうじゃなくて!勇者サンよ、そんなこと言わずに頼むよ。このまま魔王様が引きこもってたら、支配する予定の世界滅んじゃうんだよ。俺ら的にもそれはまずいし、お前もそうだろ。なんとか助けてくれよ」
「そんなこと言ってもなあ。さっき言った通り、魔王城近辺めっちゃ寒すぎて人間は近寄れるレベルじゃないし。ていうかお前魔王の部下なのに、魔王倒させていいのかよ?」
「うちの魔王様不死身だからいーんだよ!倒しても十年くらいしたら復活するから!こうなったら死に戻りでもなんでもさせてリセットさせた方がいいんだよ!」
「それでいいのか魔王の部下」
自分でも滅茶苦茶なことを言っているのはわかっているが、他に方法がないのだからどうしようもないではないか。
うーん、と勇者暫く考え込む。やがて彼は、何かに気づいたように顔を上げたのだった。
「天岩戸作戦、これでいこう!」
「あまのいわと?」
「俺がいた世界の神様の話だよ、部下君。引きこもっちまった神様を、楽しそうに部屋の前で宴会することで引っ張り出したってな話だ」
うんうんそれがいい、と彼は続ける。
「城に近づけないから、部屋の前で宴会はできないが。魔王の部屋にテレビあるだろ?そのテレビをジャックしてさあ、楽しい気持ちになるような番組作って流すんだ。気持ちが明るくなれば、きっとひきこもりもやめるしこの氷河期状態も収まると思うんだよな!」
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