魔王様、ひきこもる。

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 ***  勇者いわく、漫才とは。  二人、あるいはそれ以上の人間で行う客席演芸の一種なのだという。とぼけたことを言う“ボケ”と、それに対して鋭い指摘をする“ツッコミ”に分かれて、言い合いによって客を笑わすことを言うのだそうだ。  必要なスキルは、台詞をきっちり覚えきる記憶力。  それを全力で演じて客をのめりこませることができるだけの演技力。  それから、とにかくネタが面白いこと、だという。 ――予算の関係で、有名な人間の芸能人とかは使えない!  勇者と魔物の漫才コンビなんて面白いじゃないか、と存外テレビ局の方は快諾してくれた。ただし司会にそんな高いタレントは使えないことと、事前にネタを見せてもらってOKが出なければ出させられないとははっきり言われた。まあそうだろう、子供に見せられないようなエロネタはアウトだし、魔王様はもちろん人間が見て楽しいネタでなければ視聴率が取れないのでやっぱりアウトだ。  俺と勇者は、二人きりでネタを考え、何度も練習を重ねた。どうにかテレビ局にOKを貰うに至ったのが、企画を提出してから約二週間後のことである。  そうして出来上がったネタが、これだ。 「「どうもー!勇者と魔王の部下コンビ、名付けて“ゆうぶか”でーす!」」  そのネーミングはどうなんだ、と突っ込んではいけない。ぶっちゃけ大事なのはいかに覚えやすくてシンプルな名前であるかどうか、の方なのだから。  ちなみに勇者がボケ、俺がツッコミである。舞台の上から笑顔で客席に右手を振りながら、俺は気を引き締めんと左の拳を握りしめていた。  この放送は、全てのテレビ局で流されている。他の番組を急遽取りやめてもらって、生放送を許可してもらったのだ。テレビ大好きな魔王様も絶対に見ているはず。世界を救うための大芝居、失敗は許されない。 「勇者と言えばですね、俺どうしてもやってみたいことがあるんですよ」  にこにこ笑顔で、話を切り出す勇者。 「勇者として選ばれたからには!やっぱり欲しいでしょ、今流行りのチートスキル!異世界転生といったらコレですよ、コレ!」 「気持ちはわかりますけど勇者さん、もうチートスキルは貰ってるんじゃありませんでした?しかも、女の子にモテモテになるっていう羨ましすぎるスキル」 「そうなんですけどね、何故か俺のスキル、万人にモテるはずなのに寄ってくる女の子のほとんどが魔物の女の子ばっかりなんです。この間もベッドの上で食われそうになりました、物理的に」 「そ、それは災難でしたね……」  これ、実話だったりする。勇者のスキルは全ての女性に作用するはずなのに、何故か彼にくっついてくる女子は人外ばっかりなのだそうだ。ていうか、物理的に喰われそうになったことあるのマジだったのね、と彼が出してきたネタを見て俺がドン引いたのは言うまでもないことである。
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