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「人外の女の子も可愛いけど、まあ俺も人間ですからね。人間の女の子にモテモテになるスキルも欲しい!モテたらやってみたいことがあるんです!」
「ほう、じゃあ今そのスキルを貰えた前提でやってみてくださいよ、それ」
「付き合ってくれますか魔王の部下さん!ありがとうございます。じゃあ、隣で見ててください!」
「いえいえ~」
漫才では、何かの役柄を決めてロールプレイするというネタが鉄板なのだという。今回もそれで、勇者が“人間の女の子にモテモテチートスキルを貰った勇者”をこの場で演じてみせようというのだ。その演技に対してツッコミを入れるのが、俺の役目というわけである。つまり。
「え?お、俺のこと好きなの?……ありがとう、嬉しい。俺、人間の女性に告白されたのは初めてなんだ……」
勇者は真横の空間に喋りながら、どんどん体を屈めて小さくしていく。
「そう?好きな映画はランタンマン?うんうん、可愛いよねー空飛ぶランタンかっこいいよねー!幼稚園の帰りに映画見てきたんだ?……あ、おじさん丁度ぺろぺろキャンディーもってるんだあげるー。……でさ、将来俺のお嫁さんになって、子供いっぱい産んでくれるかな?ほんと?ありが」
「ちょっと待てや!」
ずびし!としゃがみこんだ勇者の側頭部をひっぱたく俺。
「お前、今誰を口説いてる?……明らかに幼女口説いてるよな?な?」
「え、だってモテモテスキルなんだし……」
「もっと口説く相手選べや犯罪だわ!イエス、ロリータノータッチ――!勇者がロリ口説いて逮捕されるとか最悪のニュースやろ、ていうかそんな奴が漫才の相方とか嫌だ!」
「そうか、もっと赤ちゃんの女の子にも興味を持つべきだったか……」
「逆ー!もっと大人に興味持てえええ!」
客席からは、どっと笑いが起きている。良かった、とガチガチに緊張しながらも俺は思ったのだった。ある程度現実に即し、かつ興味を引くような題材。異世界転生してきた勇者がいるのも有名だし、チートスキルを女神から貰えるらしいという話も有名だ。興味を持っている人間たちが多いなら、それを利用すればいい――なるほど、この勇者はなかなかの切れ者らしい。
全然魔王討伐に来る気配もなかったし、いつも違う女の子を連れ歩いているのでやる気がない遊び人としか思っていなかったのだが。どうやら、少しだけ見直してやってもいいようだ。
――よし、このままの勢いで行くぞ、俺達!
もし魔王様の世界征服が終わったら。
こいつは殺さず、漫才コンビを続けてやるのも案外悪くはないのかもしれなかった。
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