1話

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 就活あぶれた。  でもまぁ、あまり焦っていない。というよりは、あまり働く気がない。単発のバイトして生きてる。幸いな事にアパートは両親の持ち物で家賃なんて払った事がない。  近所のおばさん達は俺が小さい頃からいるからまるで子や孫のような気分なんだろう。心配しておかずのお裾分けをしてくれる。これにご飯で十分食べられる。  貧乏ではある。貯金はゼロ。でも今時スマホがあればそんなに暇もしない。毎日寝る前に「明日から本気出す」と思うけれど、朝起きると「やっぱ今日もパス」と思う。  こんな生活なのでとうとう三日前、彼女と別れた。  まぁ、それも割とどうでもよかったりする。むしろよく今まで付き合ってたよ。ダメ男に捕まる子だから今後気をつけた方がいいと思う。と言ったらクッション投げつけられた。 「……暇」  毎日休日だけれど世の中的にも休日の午後、俺はぼんやりベッドでだらけていた。でも、動くと腹も減るから寝る事にした。  しばらくして、誰かが側で話しかけている気がして目が覚めた。一瞬彼女かと思ったけれど、そんなわけがない。それに声は男のものっぽかった。 「おい、起きろよ」 「ん? 誰だ?」 「お前に取り憑いてる貧乏神だ」 「あはは、そりゃご苦労様で……」  ん? 貧乏神?  怠い体を起こして見てみると、知らない男が脇にいてこちらを睨み付けている。  首とか袖口とかが伸びたねずみ色のスエット上下に、ボサボサの黒髪。でも顔は案外整ってるかもしれない。  そいつは恨みがましく俺を見て、溜息をついた。 「驚けバカ」 「いや、驚いてるけど」 「どこがだ。それといい加減働け」 「えー、面倒だし。それにお前貧乏神なんだろ? 働いても無駄じゃん」  働いても働いても生活が上向かないのが貧乏神スキル。なら馬鹿らしい。最低限やれてるんだからいいじゃないか。  思うのだが、貧乏神は俺を睨み付けて一喝した。 「よくない! いいか、貧乏神ってのは働き者の財を食って腹を満たすんだ!」 「うわ、ろくでもない」 「うるせ! だがお前は食い潰す財もない! お陰で俺はひもじくて腹と背がくっつきそうなんだ!」 「だから働いてお前を肥やせって? 嫌だよそんなの。俺の得にならないし」 「おまえな……」  貧ちゃんががっくりと崩れ落ちる。それと共に蚊の鳴くような腹の音がした。 「腹が減って死ぬ」 「貧乏神って死ぬの?」 「死なないけど死ぬ」 「面白い事言うな。ってかさ、俺に憑いてないで他に行けば? 世の中もっと食い応えのある奴らいるだろ? 稼いでる奴のところに行けよ」 「そういう奴らは大抵福の神が側にいたりでつけいる隙がない。それに俺はペーペーだから優良物件には手が出せないんだよ。これでも年功序列だ」 「うわ、神様の世界も切ないな。貧乏神やめたら?」 「望んでなったわけじゃないが勝手に辞める事もできないんだ。仕事なめんな」 「まぁ、俺ニートだから」 「……はぁ」  また、切ない腹の虫が鳴った。  これを聞くとなんだか俺が悪い事をしている気がする。立ち上がって冷蔵庫を見ると、昨日隣のおばちゃんがくれた唐揚げとポテサラ、お向かいのおばさんがくれた肉じゃがが残っていた。  ご飯もこの間買ったばかりで余裕がある。更に言えば実家の持ち家だから電気ガス水道は止まらない。  冷凍ご飯をレンチンしてテーブルに出して、コンビニで貰った割り箸を出した。 「食べるか? ってか、人間の食いもの食べられるのか?」 「食べられる。でもそれ、お前のだろ」 「まぁ、そうだけどさ。でも、そんな切ない腹の虫聞きながら俺だけ食べるのも気が引けるわ」  ダメ男だけど鬼じゃない。俺が伝えると、貧ちゃんはそろそろっと来て俺の前に座った。 「頂きます」 「うん」  ちょこちょこおかずに箸をつけながら、貧ちゃんは嬉しそうに食べている。美味しそうだ。  なんか、申し訳なくなってくる。こんな美味しそうに食べるってのに、ひもじい思いをしているんだから。  綺麗に平らげた俺はベッドにゴロン。お礼にと貧ちゃんが洗い物をしてくれている。テキパキ働いているのを見るとこいつが働いた方が稼げるのではないかと思えてくる。  それにしても貧ちゃん、汚れてる。ってか、今日どこで寝るんだろう。予備の布団とかないけど。 「なぁ、貧ちゃん」 「貧ちゃん? あぁ、俺か? また捻りのない名前つけたな」 「いいじゃん、分かりやすくて。ってかさ、今日どこで寝る? 布団一つしかないよ?」  声をかけたら、貧ちゃんはもの凄く驚いた顔をした。 「いや、むしろ俺に布団敷いてくれるつもりだったのか? 貧乏神の俺に?」 「え? まぁ。一緒にメシ食ったし。今更その辺で寝とけばって、冷たくない?」  なんだか凄く馴染みがいいのは確か。前から側に居た的な。いや、居たんだろうな、取憑いてるって言ってるし。  貧ちゃんはなんか、嬉しそうだ。肌白いんだな、顔が赤いのが分かる。 「ほんと、お前そういう所が厄介だよな」 「ん?」 「俺は別にどこだって構わないから気にするな」 「えー、でもさ。あっ、俺のベッドで一緒に寝るか?」 「はぁ!?」 「いや、他にないし」  俺的には名案。  でも貧ちゃん的には違う様子。戸惑って焦って面白い。 「でも俺、汚い」 「風呂入れば? ってか、俺もか。ついでにそのスエットも着替えろよ。俺の適当なの貸すからさ」 「え!」 「あー、風呂洗うか」  腰を上げて風呂に。デカくはないけどちゃんとしたのが付いてる。  洗ってボタン押せばあとは自動でやってくれる。タオルも2人分出してふと、ちょっとだけ働く事に前向きな自分に気づいた。とはいえ、家事だが。  一人だと面倒だけれど、誰かがいればそうでもない。ちょっと発見だった。  風呂が沸いて、俺は頑なに脱がないと主張する貧ちゃんから服を剥ぎ取った。そしたらめっちゃ痩せてた。  そんな体を抱きしめて、貧ちゃんは赤くなりながら怒っていた。 「お前が俺に食わせてくれないからだぞ!」 「あー、ですね」 「食わせろ!」 「今食ったじゃん」 「働け!」 「うーん、どうすっかな」  そもそも働き口がないというか、合わないというか。 「保留で」  まずは風呂だな。  嫌がる貧ちゃんを風呂場に放り込み、汚れた髪を洗ってやる。最初は泡立たなくて焦ったけど、何度かやるうちに綺麗に泡だらけになった。  体も洗ってやると垢が出る! ちょっと面白くてこっちも綺麗にしたらいい匂いの柔らかしっとり肌になった。  そしたら貧ちゃん、凄くイケメンだ。肌白いし、顔も俺好み。今度少しだけ髪整えてやろう。そうしたらもっと俺好みになる。 「よし、綺麗!」 「……有り難う。お前のは俺が洗ってやるよ」 「ん? いいって別に」 「俺がしたいんだ。やらせろ」 「……うん」  素直に洗われていると、ちょっと気持ちいい。背中とかとても丁寧にしてくれる。なんか、くすぐったいよなこういうの。  さっぱりして、俺の高校の時のジャージとTシャツを貧ちゃんに貸した。背丈同じくらいだから大丈夫だと思ったけれど、Tシャツぶかぶかだった。痩せすぎだ。  でもこれなら二人でベッドでもなんとかなりそうだ。  遠慮する貧ちゃんを引っ張りこんだ俺は久しぶりに体温を感じたからか、もの凄くしっかりと寝る事ができた。
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