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私は都内に住む、一介のしがない写真家です。
収入が高くない、と言う意味でしがない写真家ではあるのですが、しかしただの写真家ではありません。
写真家兼、セラピストとでも申しましょうか。
そう、私は誰かの写真を撮ることで、その人の精神を癒すことができるのです。
少しだけ、そんな私の身の上話をお聞きくださればと思います。
写真家というものは生来、被写体の奥にひそむ「真実」を映し出したいといつも願うもの。
被写体が人物であれ動物であれ、さらには無生物であったとしても、表に見えるありさまを正確にとらえるだけでなく、その裏側まで写真に表現したいの思うものなのです。
しかし残念ながら、写真の世界の現実は違います。
クライアントは、そんな無用な手間をかける時間をわれわれに与えてはくれません。
売り出したい若いタレントや俳優なんかをとにかくきらびやかに、美しく撮影することだけが求められます。
撮影時間はとても短く、初対面の人の本質を知るためにうちとけたり、話しをしたりなんて許してはくれません。
短時間に、大量生産。
それが、商業写真家の現実なのです。
写真というものに魅せられ、何とかそれで生きていきたいと強く願っていた私は、そんな現実を受け入れようと努力しました。
しかし芸術としての写真を撮りたいという理想と、仕事の現実との間にある大きなギャップに、私はとても苦しんだのです。
私もまだまだ若輩者なのでしょう。
悩んで、悩みぬいて、本当に体調をくずし、さらには精神のバランスをも危うくするまでにいたりました。
常に頭はもうろうとし、足元はふらつき、与えられた少ない仕事さえも満足に手につかない状態がしばらく続いたのでした。
そんなある夜のことでした-うつろな頭でインターネットの通販サイトを覗いていた時に、一台のカメラが目に留まったのは。
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