後悔カメラ

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 それはアンティーク調の、今の時代にはとても珍しい、美しいカメラでした。現在のよくあるプラスチック製のデジカメとは似ても似つかぬ、まるで彫刻のような金属製の装飾のほどこされた趣ある筐体。  古き良き、ヴィクトリア朝時代だかなにかの時代からタイムスリップしてきたかのような、上品で、かつどこか蠱惑的な造形美です。  しかしその古めかしい外見とは裏腹に、機能としては一応今どきのデジタルカメラであるようでした。  その美しさに刺激された私は、相変わらずぼうっとした頭を抱えたまま、おもわずそれをクリックして購入したのでした。  数日してそのカメラが家に届きました。早速開封し、自分の小さな部屋の中のものを何度か試し撮りしてみます。  久しぶりに気持ちが少し高揚した私は、そのまま散歩がてら外に写真を撮りに出かけたのでした。  近所の河原まで歩いてゆき、晴れた空や、青々と草の茂る河川敷を、気持ちよく写真に収めていました。  そして不思議なことが起こったのは、風景のついでに一人の歩行者を遠くから撮影した時でした。  撮れた写真をカメラの画面で確認してみると、一度しかシャッターを切っていないと思ったのに、なにやら2つの写真が撮れているのです。  ひとつは、ファインダーを覗いた時そのままの場面が映った写真。  そしてもう一つの写真の中では―その被写体の男性が、若く美しい女性と腕を組んで歩いているのです。  その人は確か、一人で歩いていたにもかかわらず。  私は思わず、そのカメラをひっくり返したり、撫でまわしたりして何かおかしいところがないか探してみました。しかし特になにも見当たりません。  不思議なこともあるものです。  いやいやもしかしたら、実際に2人の人が歩いていたが、タイミングがずれて彼らの立ち位置や角度の映り方の違う2枚の写真が撮れたというだけなのかもしれません。  しかしそれ以来そのアンティーク調の美しいカメラは、意外な使いやすさも手伝って、私のお気に入りになりました。  そして私はそのカメラを、仕事の時に使ってみることにしたのです。
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