毒島の.unkoを求めて……

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毒島の.unkoを求めて……

 今日は闇軍の攻略イベント。  ベノムは光軍の領土に侵入して、光軍の戦士達を次々と血祭りに上げている。 「ヒャッハー! 攻略イベント、マジ最高!」 「ベノムさん!」  男性の声が聴こえてベノムが振り返ると、平凡な姿のおじさんアバターが立っている。 「何だよ、民間人は倒せないから相手にしないよ」  ぶっきらぼうに振る舞うが、アバターは真剣な表情を浮かべている。 「私は『なつみちゃんを救う会』の会長の嶋です」 「貴方のアバターの上にはmarrowって表示されているけど?」 「嶋は私の本名です」 「なんでまた本名を教えるの? そもそもなつみちゃんって誰?」 「なつみは私の娘です」 「娘?」 「貴方、毒島さんですよね?」 「ちょっ!」  ベノムはおじさんアバターに近寄って肩を持つと、人の多い戦場から離れる。 「なんで俺の本名を知っている!? って言うか、気安く口にするなよ!」 「ごめんなさい。でも、こうでもしないと相手にされないと思って」  二人は人気の無い森林地帯に入った。 「プライベートモードにして」 「はい」  毒島はマウスでゲームのプライベートボタンをクリックした。 「聴こえてる、嶋さん?」 「聴こえてます」 「それで、俺に何の用だい?」 「毒島さんの骨髄を娘に分けてください!」 (やっぱり……)  現実の毒島が頭を抱えて下を向くと、ベノムも暗い表情で下を向く。 「どうやって僕の名前を調べたんですか?」 「ゲノムリンクスの公式サイトで毒島さんの骨髄の型を調べまして」 「ゲノムリンクス?」 「オンライン.unkoを運営している会社で、ユーザーのDNAや肉体情報を調べて、私達のような白血病治療を求めている方が骨髄のデータなどを調べたりすることが出来るんです」 「俺はそんなこと知らないぞ!」 「何言っているんです。オンライン.unkoに登録したら、情報公開の規約に合意したことになっているんです。だから貴方もポイントを貰っているんでしょ!?」  毒島はパソコンのモニターから目を切り、傍にある『オンライン.unko』の取扱説明書を広げてみる。  下部の方の注意書きをよく読んでみると、確かに注意書きが為されている。 〇.unkoファイルは、ユーザーの老廃物から抽出したユーザーの肉体データです。 (中略) 〇株式会社ゲノムリンクスは、ユーザーから集めた.unkoファイルのデータを情報提供を求める個人または法人に販売することが出来ます。 (中略) 〇.unkoファイルのデータの著作権は、株式会社ゲノムリンクスに帰属するものとします。 (中略) 〇ユーザーの.unkoファイルから有力な医療情報があった場合、株式会社ゲノムリンクス、または情報を購入した個人または法人から、ユーザーに連絡が入ることがあります。また、これをユーザーは拒否することが出来ないものとします。 (中略)  蒼褪める毒島。 「マジかよ……」  おじさんアバターがその場でベノムに土下座する。 「お願いです! なつみを救ってください! なつみはまだ19歳なんです!」 「嶋さん……」 「お願いです! 毒島さんの骨髄液を分けてください! そうすれば娘の命は助かるんです! よろしくお願いします!」 「仕方ないですねぇ……」 「ありがとうございます!」 「で、謝礼は?」 「謝礼!?」  土下座していたおじさんアバターは顔を上げて、急に真顔を見せる。 「謝礼って、また金を取るつもりか!?」 (ケチなジジィだ)   毒島の顔が引きつると、ベノムの顔も邪悪に歪む。 「またって何だよ。俺はアンタからもゲノムリンクスからも1円も貰ってないぞ!」 「人の命を救うのに、お金って……」 「じゃあ病院は無料なのか!?」 「違いますけど……」 「謝らないと、キックアウトするぞ」 「わっ、分かりました。すみません」 「で、いくらだよ」 「いくら?」 「骨髄を提供するなら、いくら俺は貰えるんだよ」 「いくらと言われましても……」 「海外で臓器提供を受けようと思ったら、数億円は払わないといけないよなぁ?」 「数億円!?」 「娘さんの命が欲しいんだろ? 俺にだってそれくらい貰う権利はあるよなぁ?」 「そんな数億円なんて」 「じゃあ、2000万円でいいよ、2000万」 「2000万なんてそんな大金……」 「じゃあ娘さんの命は諦めろ。値引き交渉には応じない」 「分かったよ!」  島が声を荒げたのが、毒島は気に喰わなかった。 「なんだ、てめぇ、その口の利き方は!」  慌てて態度を翻すアバター。 「あっ、すみません! 毒島さん」 「交通事故とか殺人事件とか災害とか、自分の家族を失う人は居るよなぁ?」 「そうですね、いますね……」 「2000万払えば、娘さんの命は助かるんだ。安い買い物だろ?」  全身を震わせるアバター。 「……ですね」 「よし、2000万円だ。口座に金が振り込まれたら手術に附き合ってやる。俺の入院治療代もあんたが負担しろよ」 「分かりました……」 「じゃあ口座番号だが……」
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