第2話 隠された扉

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 父は、この国の宰相(さいしょう)でありながら優れた魔術師でもありました。  兄は父から英才教育を(ほどこ)されていましたが、私は何も教わっていません。  女は黙って男を見守っていればいいのだというのが父の口癖でした。  ですが、私は父に隠れて書斎(しょさい)に入り込み、魔術の本を読み耽りました。  兄には申し訳なく思いますが、恐らく私の方が兄より魔力量も多く、魔力操作も上手くできます。  今までは大々的に使うことができませんでしたが、ここでなら話は違います。  思う存分、魔術が使えるのです。  私は気合いを入れて、洗浄の魔術を使います。  効果の範囲は一階部分のみ。  床、壁、天井、テーブルと椅子も一緒に。 「来たれ清き水よ、(けが)れを(そそ)ぎ輝きを、清廉(せいれん)緑風(りょくふう)が全てを包む」  言い終わるやいなや、私の魔力が手のひらから(ほとばし)り、大量の水となって空間全体を洗い流していきます。  最後に一陣の風が吹いて、洗浄が完了しました。
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