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ですが、セイル様の手の上に突然現れた湯気の立つシチューのお皿は、抗いがたい魅力を放っておりました。
うう、さすが悪魔ですわね……。
私は差し出されたシチューを拒絶できるほどの意思を持っておりませんでした。
漂ってくるクリームの濃厚な香りに、お腹がきゅるると鳴るのを止めることもできませんでした。
二人で一階に戻り、テーブルでシチューを食べます。
私が食べるのを、セイル様は隣に立ってニコニコと見守っていらっしゃいます。
気まずくはありますが、温かい内に食べなくては失礼でしょう。
こちらもセイル様が用意してくださった銀のスプーンで、一口。
「美味しい……」
「そうであろう! ワハハ!」
「おい……しい……っ」
「なっ、泣くでない! どうしたのだ、あっ、パンか!? ふわふわのパン持ってきてやろうか!?」
おかしな話ではありませんか。
悪魔の差し出した料理があまりに美味しくて、あまりに温かくて、あまりに優しくて、涙が出てくるなんて。
今まで家族にさえ感じたことのない気持ちが湧き上がってくるなんて。
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