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八月三日 バレンタインの雪だるま君
今日は二月の十四日。
言わずと知れたバレンタイン。しかも日曜日。まぁ、日曜か平日かは俺たちの職業柄あまり関係はないんだけど。休日をなるべく一緒に過ごせるように調節してる俺たちは、今日と明日、二連休で休みを合わせていた。
付き合い始めて二回目。
一緒に暮らすようになって初めてのバレンタイン。去年は照れくささもあって、コンビニで買ったチョコをお土産でも渡すように「あげる」と言って渡した。
バレンタインコーナーにあるのは流石にいくらコンビニとはいえ、買えなくて。だから、お菓子コーナーに置いてあるけど、ちょっとだけお高いやつを他のお菓子に忍ばせて購入。もちろん一ノ瀬さんはニコニコ喜んでくれたけど、うしろめたさもあって、俺の気持ちがあまり納得できていなかった。
今年こそはといろいろ考えたけど、お店で買うのはやっぱりなかなかハードルが高い。ネット購入も一緒に暮らしているだけになにか違うような気がして、年明けから考えに考え抜いた俺は手作りというゴールに辿りついた。手作りなら、自分の慰めに板チョコを買う男の姿を装えるし、なにより想いも気合いも十分に込められる。これぞ秘策と言えるスペシャルな名案。どんなのが作れるかと、一人の時にコッソリいろいろレシピを検索するのも楽しい時間だった。
一ノ瀬さんは毎年バレンタイン付近の日曜には北関東にある実家に顔を見せに帰ってる。お母さんが毎年チョコを用意してくれるからそれを受け取りに行くのだ。一ノ瀬さんらしい優しさ。ずっと息子にチョコを用意してくれるのもあったかい。やっぱり一ノ瀬さんの実家らしいなと思う。 その実家から、昨夜、電話がかかってきた。今年はお母さんが風邪を引いてしまったらしく、帰ってこなくていいとのこと。
一ノ瀬さんは「今年は日曜がバレンタインだから実家に帰るのは次の週にして、十四日は映画観て、鍋の材料を買ってふたりで鍋しよう。一緒に過ごそうね」と言ってくれたんだけど、携帯を耳に当てて俺をチラッと見て「じゃあ、長居しないでチョコだけもらって帰るよ」と告げた。
まぁ、仕方がないよ。一ノ瀬さんも心配だろうし、気遣って電話してくれたお母さんも、息子の顔を見たらきっと元気になるだろうし。
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