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そんなこんなで俺は今、生チョコケーキを作っている。
本当は昨夜コッソリ起きてコッソリ作る予定だったんだけど、思いがけず一人の時間がたっぷりできてしまったので気兼ねなくのんびりと制作することとなった。
刻んだ板チョコを湯煎で溶かしながら思い出す。
一ノ瀬さんは出かける時に「多分、親父が昼に寿司とってくれると思う。だから三人で寿司食って帰ることになると思う」と申し訳なさそうな表情だった。一ノ瀬さんには結婚した弟さんがいて、実家の近くに住んでいる。仲良し家族だし、一ノ瀬さんが帰るとたぶん弟さん夫婦も顔を見せにくるだろうし。そうしたらやっぱりすぐには帰ってこれないんじゃないかな……。
ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。
「よしと」
生クリームを入れたとろとろチョコを、砕いたビスケットを敷き詰めた型にたっぷりと流し込む。あとは冷蔵庫で冷やして、トッピングで飾れば完成だ。
後片付けを済ませ、アパートの窓から外を見たら薄曇りで、白い雪がチラチラと舞っていた。一ノ瀬さんはスタッドレスタイヤに交換してるから大丈夫だとは思うけど、最近大雪になることも多いから心配だなぁ。
午後二時過ぎに携帯がゴゴゴゴゴと机の上で振動した。
見れば一ノ瀬さんからのメッセージ。
『今から帰ります。遅くなってごめんね』
申し訳なさそうな表情で文字を打ち込む一ノ瀬さんが目に浮かぶ。
俺はすぐに返事を返した。
『ううん。雪降ってるし気を付けてね。ゆっくりで大丈夫だからね』
ここから実家までは車で一時間半の距離。
五月の旅行でドライブがすっかり気に入ってしまった俺たちは「車欲しいね」としょっちゅう話していた。買おうよと話がまとまった時、運良く一ノ瀬さんの弟さんの新車購入の話が舞い込んできた。
今までは軽自動車だったけど、結婚を機に大きな車に乗り換えるとのこと。
なので俺たちはただ同然の値段で軽自動車をゲットできたのだ。
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