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「いっ!」
「シロちゃん!?」
ふらふらの放浪者のようだった一ノ瀬さんが大声を上げたと同時に、バタバタ駆け寄ってくる。待ちに待った顔がビックリした表情で俺を見下ろした。
「あぶないよ。走っちゃだめだよ。大丈夫? 骨折してない? あ~サンダルなんて履くからぁ」
「な、なんで?」
徒歩で帰ってきた一ノ瀬さんの姿に、素っ頓狂な声が出た。背中に一ノ瀬さんの大きな手を感じた途端、グイッと体が持ち上がる。俺は慌てて一ノ瀬さんの首にしがみついた。あんなにフラフラしてたのに、俺をお姫様だっこしちゃってる。
「救急車呼ぼう。レントゲン撮ってもらったほうがいい」
真剣な表情でザクザク歩きながら言う。
「いや、こんな天気だしタクシーつかまえた方が早いか。それより歩いた方が……」
まさか、俺を抱えたまま今度は病院まで行くつもり? いや、ムリでしょ。あんなヨロヨロだったのに。
「いやいや、ジンジン痛いけど、レントゲンなんて大げさだよ。ありがとう。立てるから、大丈夫だよ」
「ほんとに?」
一ノ瀬さんが足を止める。
「うんうん!」
コクコク頷くと一ノ瀬さんはホッとした表情になって、アパートへ足を向けた。
「ごめんね。俺が遅くなっちゃったからシロちゃんまで転んじゃって」
立てるから大丈夫だよと言ったんだけど、一ノ瀬さんは下ろそうともしない。お姫様だっこはいつやめてくれるんだろう。
「勝手に転んじゃっただけだから、それよりどうしたの? 車は? ってか、歩けるよ?」
一ノ瀬さんはアパートの階段下まできてようやく下ろしてくれた。
「ほんとに大丈夫?」
どこまでも、心配症な一ノ瀬さん。心配してたのは俺なんだけど、なんだかちぐはぐになってしまった。
「うん。ありがとうね」
「あ、シロちゃん薄着じゃん! 寒いから部屋もど……くしゅんっ!」
「俺じゃなくて、あんたでしょうが」
一ノ瀬さんの頭や肩にまだ残ってる雪を払い落とす。
「えへ。ありがと~」
雪はすっかり凍りつき、ジャケットにくっついてしまってる。早く戻ってお風呂に入らないと。
冷え切った一ノ瀬さんの手をギュッと握って階段を登る。
部屋に入ると一ノ瀬さんが言った。
「シロちゃんお尻濡れちゃってる。お風呂入ってきなよ」
「確かにぐちょぐちょだけど、俺じゃなくって一ノ瀬さんだってば! からだ冷え切ってるんだから」
人の心配ばかりしてる一ノ瀬さんのびっちゃびちゃに濡れたジャケット剝がすように脱がしていると一ノ瀬さんが言った。
「じゃあ一緒に入ろう」
「うん、別にいいんだけどさ」
「いこいこ」
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