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「ごめんなさい。今、最初から衝撃を受けたんだけど。一ページ目から女の子同士でキスをしていなかったかしら」
クラウディアは確認するようにセレスに聞く。すると、彼女は目をますます、輝かせた。
「その通りさ!キッス・ミーですから。キスから始まるに決まっているさ。女の子同士で唇と唇を近づけて、想像しただけで萌えるさ」
そう言って興奮するセレスを見て、クラウディアはなんて声をかけたらいいか戸惑う。見た目はカッコいい男装の麗人なのにその顔は緩みきっていた。確かに絵は悪くない、デフォルメされた女の子同士がキスをしているところは、現実にいる人を上手いこと、ごまかせている気がする。
ただ、ストレートにキスする描写ばかりが先走り、話らしい話がない。キスから始まりキスで終わる作品。イラスト集だといえば、それはそれで理解できる。だが、これは漫画という形態で出されている以上、ある程度の話がなくてはならない。それが、最初から脈略のないキスの場面から始まり、一ページが丸々、キスしているだけの場面で埋まっていた。
一部の人々に絶大な支持を受ける同人作家エロマリーこと、クラウディアから見て見れば、二流、三流の漫画に見えてしまう。
「ちなみに、この同人誌は誰が書いたの?」
同人誌の表紙には恋愛女愛と、作者名が書かれていた。新人なのかクラウディアはその名を聞いたことがなかった。
「誰って、私さ!この私、セレスティーナが書いた作品さ。どうですか」
「え、ええ。良いと思うわ」
クラウディアは頬を引きつらせて言う。全てに目を通した訳ではない。出だしだけで、判断はできないが、セレスはクラウディア以上に自分の欲望に忠実なのかもしれない。そうでなければ、ストーリーの破綻を無視してまで作品を書こうとしない。
すると、フェムトが口を挟む。
「クラウディア様。嘘、よくない。ちゃんと、言わないと。セレスのため、ならない」
「え?」
「セレス、漫画、破綻している。話、成り立っていない」
フェムトは淡々としていたが、正直にセレスの漫画の感想を述べる。
「うっ」
フェムトの一言に、浮かれていたセレスはピタリと動きを止めた。
「いや。それは」
「セレス、もっと、話、力入れた方がいい。同人誌、可哀想」
「それは、その」
フェムトは真顔でセレスに迫る。一点の曇りも無い眼にセレスは頬を引きつらせ、後ろに引き下がる。
「漫画、生きてる。もっと、楽しくないと」
「わ、分かったからさ。真顔で近寄らないでくれないかな」
クラウディアの位置からはフェムトが今、どんな顔をしているのか知る由がない。ただ、女の子が好きだと豪語してたセレスが顔を引きつらせているところから、察するに口外できない表情なのだろう。
「あの、そろそろ良いかしら?王妃様の部屋へ案内を」
これ以上、セレスの漫画の話題に触れると、彼女自身、精神がすり減りそうだ。それを察して、クラウディアはフェムトに言う。フェムトの手助けもあって、ひとまず面会に向けての正装は整った。騎士団長としては甲冑を着るべきなのだが、王妃との面会にそこまでする必要はないのか、着替えさせられたのは赤いドレスだった。
振り返ったフェムトは真顔だった。セレスはよほど怖かったらしく、今にも泣きそうな顔をしている。もし背中を預ける壁がなかったら、床に尻もちをついていた。
「失礼しました。王妃様の部屋、案内します」
やっぱり、フェムトは淡々としていた。
「セレス、立てる?」
「あ、はい」
フェムトの真顔が効いたのか、即答だった。身体を震わせながら素早く立ち上がる。フェムトは「うん」と、頷くとクラウディアの方を向いて、
「それでは、ご案内、します」
丁寧な言葉遣いでクラウディアを王妃の部屋まで案内するのだった。
記憶に薄い王国の王妃。どんな人が待っているのか。
鬼が出るか蛇が出るか。
クラウディアは彼女が住まう離宮へと向かう。
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