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「ああ。もう人生は半ば諦めたよ」
「そうか」
金本の顔から笑みが消えた。
「じゃあ、人生諦めついでに国のために働いてみないか」
金本の顔が照明で影になっている。だが、目の周辺だけが光を受けて爛々と輝き、俺を真っ直ぐ睨んでいた。
「俺は公安警察の警部だ。左翼テロや過激派なんかを取り締まっている。公安てのは身分を明かさないもんだが、俺は隠すつもりはない。なぜか分かるか」
「いや」
全身から冷たい汗が吹き出している。汗の海に溺れてしまいそうになる。
「いつでもおまえを逮捕できるネタをつかんでるからだ」
「俺は何もしてない」
「そうかな」
金本はテーブルに写真を何枚か並べた。
見覚えのある顔。ミサキだった。
使い慣れないマッチングアプリで出会った。奇跡的に意気投合。ホテルに連れ込んだ。一度きりで終わった儚い夢。
ミサキと俺が一緒にホテルに入る瞬間を捉えた写真もある。
「この女、ミサキと名乗っただろう。年齢は二十歳か。全部出鱈目だ。ミサキの本名は山川綾香。十七歳と十一ヶ月。俺はおまえをいつでも逮捕できる」
「知らなかった。二十歳と言ってたんだ」
「おまえの罪状などいくらでも捏造できる」
「何をすればいいんだ?」
悲鳴に近い声が裏返る。
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