冷血漢

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帰りのホームルーム。担任が抜き打ちの所持品検査を行った。 園田あゆみの鞄から、煙草のパッケージが発見された。金本が吸っている煙草と同じ銘柄だ。 「私のじゃありません」 園田は青ざめながら頭を振った。唇が戦慄いていた。 「皆そう言うんだよ。園田あゆみ、生徒指導室に来なさい」 騒然とする教室の中、呆然とする園田が連行されていく。藤田は能面のような無表情で彼自身の両手を見つめている。金本は勝ち誇った顔を崩し、声を出さずに笑っていた。 その日のうちに園田あゆみは退学処分となった。学年トップの成績だった園田あゆみが脱落。後釜は金本義雄だった。人間離れした怪力の持ち主ながら学業成績優秀。そしてスポーツ万能。しかも警察庁のお偉方の父親をバックに持っている。そんな金本には誰も逆らえなかった。 園田あゆみが退学した後の高校生活というものを、俺はなにひとつ覚えていない。すべての出来事はハイトーンでコピーした出来損ないのモノクロ写真のようだった。だから藤田が学校に来なくなったのがいったいいつのことなのかさえ、俺はまるで覚えていない。 進路を完全に見誤った俺はブラック企業に身も心もズタズタに引き裂かれ、二十代半ばの頃には既に非正規労働者の最底辺に身を落としていた。 そしてあの日から十七年が過ぎた今。三十四歳。俺は人生に早々と見切りをつけている。 金本義雄は警察官になった。その金本に虐め抜かれて高校をドロップアウトした藤田はヤクザになった――そういう噂だが、詳しくは知らない。
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