凍える ~冷たい吐息~

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仕事帰りに公園に立ち寄りベンチに深く腰掛け空を見上げる。 いなくなってしまった愛おしい彼女を想い描くと今にも涙がこぼれそうだ。 身を焼くほどに情熱的な恋をした。 その愛する女は、ある日突然姿を消してしまった。 深いため息を吐き俯いた。 ”プルルルルー、プルルルルー” 不意に携帯電話の着信音が鳴り響く、慌ててポケットを探り自分の携帯を見ると着信は無かった。近くに人はいない。それなのに電話の着信音が聞こえる。 ”プルルルルー、プルルルルー” 携帯電話の着信音が鳴り響く。 ”もしかしたら”っと立ち上がり、自分の座っているベンチの下を覗くと奥の方に携帯電話が落ちていた。 膝をつき低く屈み、拾い上げると携帯電話の着信音は止まってしまった。 「携帯電話の落とし物か」 落とした人からの着信かもしれないと思い画面をタップしたが、指紋認証のロックが掛かっているらしく開かなかった。 自分と同じ機種、着信音も初期設定のまま使っていた。そう言えば、彼女も同じ色のこの機種だったな。 まあ、日本中でこのスマホと同じ機種を使っている人なんてかなりいるだろう。 電車の中でも何人も見かけるくらいポピュラーな機種だ。 「仕方ない警察に届けるか」 一人ごちて、ベンチから立ち上がり、黄昏に染まる公園を後にした。
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