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とうとう亜紗美が頷くと、満はさらに楽しそうに、にっと笑った。
「よっしゃ。それじゃ、そこまでデータで調べられたなら、本当はここからは俺の仕事だと思うんだけど⋯⋯亜紗美ちゃん、やってみない?」
亜紗美は驚く。相談といっても、満にはこの後の情報収集をお願いするつもりでいた。満が言っていたように、亜紗美は基本情報を得ることができる。しかし、その先の情報は、実際に人と会ってしか得られないものが多い。
そして、亜紗美は人と話すことが最も苦手だった。
「当時の生徒会に会って話を聞くのが一番手っ取り早いかな」
亜紗美が知らない人に会いに行って話を聞くなど、本当に可能だと思っているのだろうか。
満は、そんな亜紗美の心情を察したようにくすくすと笑う。
「大丈夫だよ、今日の俺に対してやったみたいに、データを見せればいい」
確かに、今日亜紗美はほとんど喋る必要がなかった。しかし、それは亜紗美に慣れている満が相手だからだ。
「俺が情報収集得意なのは、顔が広いからだ。でも、今回の相手は初対面。俺よりも、可愛い女の子が行った方が話してくれる気するんだよね」
たとえ相手が初対面だとしても、ろくに喋ることもできない亜紗美より、満の方がはるかに多くの情報を収集できるだろう。本来満の得意分野であるところを、わざわざ亜紗美に任せる意味が分からなかった。ただの気まぐれとも思えないが。
「大丈夫。何かあったら俺に電話して。日程が分かっていれば、すぐ出られるような状態にしておくからさ」
亜紗美はこの時、いつもよりも少しだけ前向きな気持ちだった。仕事以外の調べごとのために積極的に動いている時点で、亜紗美にとっては珍しいことだったのだ。
亜紗美は小さく深呼吸する。
「分かりました」
短く決意を示すと、満が満面の笑みを浮かべた。
「よし。それじゃ、当時の生徒会員と連絡取れるように、情報集めることから始めよう」
満の生き生きした声に押されるように、亜紗美はスマホを操作し始める。
自分も乗り気なのだと、気づく。頑張ってみたいのだ。高校に入ってから、生徒会執行部に所属したこともあり、人と関わることが多くなった。その中で、言葉をうまく発せないことがもどかしいと思った時が何度もあった。
何かが動き出している。
そして、その一要因として、頭の隅にある、危険だという警告。
今の亜紗美にとって、それは高揚感を高めるものだった。
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