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「この間、海行ってきたよ」
「そうそう。僕たち、たまたま一緒のところに泊まったんだよね、たまたま」
胡散臭い笑顔だ。朔はこういう時だけ分かりやすい。
「海!いいなぁ。私も昔はビキニ着たんだよ」
「ええっお母さんが?」
「なによ、昔は若かったんだからね」
驚いてみせたが、きっと似合っていたのだろう。
お母さんも、分かりやすいようで複雑だ。色々な感情を笑顔の裏に隠している。しかし、その笑顔が嘘だとも思わなかった。
少し前は、大人は複雑なのだと、漠然と思っていた。だから知ろうともしなかった。しかし一度離れたからか、今は見方が少し変わっていた。彼らには人生経験が長いこと以上の何かがある。
もしそれが、私に対する隠し事と関係があるのなら。
私はいつもよりはっきりと見える、両親の複雑な色を見ていた。
(知ろうとするのは、いけないことなの?)
「友達はできた?」
こちらの様子には気づかないようなお母さんの言葉で、我に返る。
すぐに思い浮かんだのはたるとだったが、新しい友達というわけではない。
「朔もそうだけど、アリスもぼんやりしてるところがあるから、心配よ」
「僕は生徒会でいい仲間に恵まれたよ」
朔と同じにされたことは心外だったが、確かに、友達と呼べる人は少ないのかもしれない。
「彼氏とかできたらすぐお父さんに教えるんだよ。見定めてあげるから」
「朔も、彼女できたら紹介してちょうだいね。お母さんが可愛がってあげる」
私たちはあきれて両親を見る。
しかし私は、家族がいつもの穏やかな雰囲気に戻っていることにほっとしていた。家族の間でまで探り合いは嫌だった。ここは、私が安心して安らげる場所であるはずだ。
「喋ることが苦手な子とよく喋るかな」
「へぇ」
「それちょっと矛盾してるよ」
「繊細な子だから、色々考えすぎて話せなくなっちゃうんだって」
「アリスも、そういうことには敏感よね。あなたも繊細なところあるから」
お母さんがくすくすと笑って言った。
「だから友達になれたんだろうけど」
「友達、か」
「違うの?」
よく分からない。正直、"友達"という言葉はあまり使いたくなかった。自分の周りの人を線引きしているように思えて、嫌な感じがしてしまう。
「何かあったときに心配に思う子ではあるかな」
「それは友達だよ。大事にしなさいな」
お母さんは少し眉を下げて笑う。お母さんの隠している色が、少しだけ見える。
年齢が違っても、血が繋がる家族でも、同じ人間であることには変わりないのだ。
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