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変化するもの
お母さんたちの家には、ちょうど4日間滞在する予定だった。
お盆の時期だったので、朔は生徒会の活動はなく、私も部活は休みだった。しかし、両親はそうはいかない。特にお父さんは仕事柄急な出勤を要することが多く、最後の1日はお母さんと3人で家にいた。
2、3日目で都内を歩き回っていたので、その日は家でのんびりすることに異論のある者はいなかった。
「お昼の買い物行ってくるね」
そう言ってお母さんはつい先程出ていったので、今は小綺麗なリビングに朔と2人きりでいる。
中央の低いテーブルに、キッチンに背を向けたふかふかのソファ。ソファと向かい合わせの小さめのテレビと、鉢植えに入った造花のひまわり。シワのないワイシャツと、隅っこに置かれた掃除ロボット。
両親共に部屋を散らかしたままにはしない性格とはいえ、最低限のものしかないリビングは、生活感がないとも言えた。
しかし、南側のバルコニーから入る光が、全てをどうでもよくしていた。
家の雰囲気のせいか、2人暮しの狭いアパートにいるときのような、どこか気まずい空気はなかった。ただ単に、一緒にいることに慣れてきたのかもしれないが。
私はソファに腰掛けて携帯をいじっていたが、すぐにすることも無くなり、暇を持て余していた。テーブルの向こう側の、長座布団にうつ伏せになっている朔は、熱心に本を読んでいるようだった。
「朔、本なんて読むんだ」
彼の読書を邪魔することになると分かっていたが、退屈に耐えきれず、口を開いた。朔は心外そうに顔をあげる。
「僕をなんだと思っているの」
「本よりも女の人が好きなのかと。何読んでるの?」
見たことのあるような表紙に引かれて、身を乗り出す。真っ赤な紙面に白く『祭日の山羊』と書いてある、極めてシンプルな表紙だ。
「やっぱり、それ知ってる」
「ほんと?僕も前読んだことあったんだけどね、亜季ちゃんが持っているの見て、最近また読みなおしているんだ」
「えっ亜季さんこそ意外だな」
正直な私の言葉に朔は苦笑いする。
「普段は読まないみたいだよ」
彼女が本を読むようには見えないことは、同意のようだ。
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