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亜季さんがなぜその本だけ読んだのかが気になったが、特別面白かった覚えがあるので、誰かに勧められたりしたのだろう。
確か、長い長い1日の話だった。面白かったことは覚えているが、結末が思い出せない。
「久しぶりに読むと少し印象が違うね」
朔は、まだ半分以上残っているページをパラパラとおもむろにめくる。
始まりは覚えていた。数人の少年少女たちが、今日は世界最後の日だと先生に告げられるところから始まる。彼らは、それぞれが最後にしたいことを考え始めるのだ。
「すごく怖く感じた覚えがあるけど、そうでもないのかな」
「うん、いい話だった気がする」
だんだんと話の内容を思い出してくる。彼らは少し複雑な育ちの子供が多かった。幸せな家庭で育ってきた私には考えられなかった。
「あーでも早く読まないと」
「どうして?」
再び本とにらめっこする朔に首を傾げる。夏休みだから、時間はたっぷりあるだろう。しかし、朔は少々言いづらそうに口を開く。
「これ、亜季ちゃんが持ってたやつなんだよ。間違えて持ってきちゃったみたいで」
「えっそうなの。それは早く返さないと。⋯⋯ていうか、亜季さんと会ってないの?」
朔が一度離れた女性の元には戻らないことは知っていた。知っていたけれど、聞いてしまう。
案の定、朔は困ったように小さく笑う。
「会ってないよ。知ってるでしょ」
「そうだけど⋯⋯亜季さんはいい人だよ」
朔は意外そうな顔をした。
「そっち?」
「どっち?」
朔は考え込むような素振りを見せる。分からないふりをした私は、少し面白いと思って朔を見る。
「やっぱり、亜季ちゃんには懐いているんだ」
「そうなのかも。たまに連絡もとってるよ」
「えっ、じゃあアリス、僕の代わりにこれ返してきてくれないかな?」
「ええ」
私は眉を寄せるが、亜季さんの気持ちを考えると、その方がいいのかもしれない、と思う。フラれた相手に会うのは気まずいだろう。朔も流石に無神経ではないようで、気まずいようだ。
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