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そして、幸か不幸か、学校で悩ましい状況にあることは事実だった。
生徒会として仕事をするうえで、基本的に大きな悩みや不満を抱えたことはなかったが、今は少し状況が異なっている。情熱も持つことのなかった自分が、学校の代表として、必要以上に生徒のことを考え始めていたのだ。生徒のために、何かをしたいと思っていた。そのきっかけとなった出来事は、同時に大きな悩みももたらしていた。
だから、見ず知らずの彼に、話してしまった。頭を抱えてしまう今の状況を。
彼は、その話を深く聞くにつれて、目の色を段々と変えていった。何故かは分からないが、彼はその話にとても興味を示していた。そして、全てを話し終える頃、彼は真剣な表情をしてこちらを見て言った。
「俺にも、協力させて欲しい」
自分の悩みに真剣になってくれたのが嬉しかったのか、彼の生きる理由を作ったように思えて調子に乗っていたのか、単純に彼との接点をまだ持ち続けたいと思ってしまったのか。具体的にどう協力してくれるのかは分からなかったが、断る理由はなかった。
彼はどこかほっとしたように、ありがとう、と言った。そして、その出来事の原因に心当たりがある、と言った。それを聞いて、何故かがっかりした。自分のためではなく、その出来事自体に興味があったのだと、分かってしまったからかもしれない。
彼はこの辺に住んでいるわけではないので、頻繁には来れないということで、連絡先を交換した。身元は証明されていたので、警戒心は1ミリもなかった。
いつのまにかあたりが暗くなりかけており、どちらともなく立ち上がった。別れ際、思いきって口を開いた。
「自分の命より大切なものって、最愛の人ですか?」
彼は目を見開いたが、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「そうだね。だから、俺は一生彼女のために生きると決めたんだ」
悲しみを抱きながらも、別の強い意思を秘めた、しっかりとした眼差しだった。ああ、この人は本当に最初から死ぬ気などなかったのだ、と思った。彼の背後の沈みかけた太陽が、少し寂しく見えた。
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