Interlude 3

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Interlude 3

 生徒会には入りたくて入ったわけではなかった。昔から、前に立つタイプに見えるようで、勝手に学級委員をさせられたりしていた。高校の生徒会も、同じようなものだった。友人にやればと言われたのがきっかけで、なんとなく、なっていた。  そんな感じなので、仕事は仕事としてこなすだけだった。それ以上の情熱を持つこともない。幸い、それでも勝手に人はついてくる。自分はそういう性質のようだったから。  しかし、それが最近変化してきていた。自分でも、その変化が分かるのだ。そして、その理由もはっきりと分かっていた。  あの人に出会ったのは、そんな時だった。  あの日、いつも通りに学校から家へと向かっていた。家のすぐ手前の踏切で警報機が鳴り始めて、足を止めた。自分とは違う足音が、一定のペースを崩さずに近づいてきた。その足音が自分の横に来ても、なお、そのペースは崩れない。だから思わず、横を通り過ぎようとする姿を見上げた。  20代前半と見える男性だった。じっと見てしまったのは、彼の横顔の端正さに見とれたからではない。死にそうな顔をしていた。本当に、死にそうだと思ったのだ。きゅっと結んだ口と、深く吸い込まれてしまいそうな瞳。その目は真っ直ぐに前を見ており、降り始めた遮断機も見えているはずだった。  しかし、彼は歩みを緩めない。こちらが見ている間も、躊躇いなく踏切へ入ろうとしていた。周りには、自分とその人しかいない。 「あ、あの⋯⋯!」  半ば恐怖心に駆られて、その人の手首を掴んでいた。彼は心底驚いたように、ぱっとこちらを振り返った。その目は大きく開かれて、光が差し込まれていた。それを見て、無性にほっとする。きりっとした顔立ちの彼が困ったように眉を下げたのを見て、ただぼーっとしていただけかもしれない、と思う。  はっとして、慌てて手を離す。 「ごめんなさい。踏切に気づいてないように見えたので」  彼は後ろを振り返って、下がりきった遮断機を見る。マイペースな性格なのか、ああ、と初めて気づいたように頭をかいた。再びこちらを向いた彼は、柔らかい笑みを浮かべていた。 「ありがとう。ちょっと考え事をしていて」  真顔の時はキレのある端正さだと思っていたその顔は、笑うとだいぶ印象が異なった。  彼は少し気まずそうに、横に並んでくる。こちらとは人1人分の距離が空いていた。お互いにそれ以上は喋らず、元々そうであるように、たまたま居合わせた他人に戻っていた。
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