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千代子はただでさえ口数が少ない。家族も中学の担任も、「あの子は大丈夫だーかや?」と気にかけていた。
しかし、千代子は自ら都会への進学を決めた。都会への憧れと、自分の性格を変えるためだった。
自分の性格は知っている。大人しく、口数も少なく、引っ込み思案だ。
それを変えたかった。
田舎にいても、変わらないと思っていた。
夢と希望を持って踏み締めた、都会のアスファルト。
故郷の景色は見渡す限りの山々と、田んぼと畑、川のせせらぎ。それが高層ビルと人に囲まれ、騒がしい町の音を聞いたときは心が震えた。
──やっぱり都会って最高だがん。地元のみんな、私、頑張るけんね。ここで、生まれ変わるんだ!
しかし、その決意は見事に打ち砕かれた。
喋れば出る訛り。出雲弁。
それを笑うクラスメイト。
それは千代子にとっては恥ずかしく、屈辱的でもあった。
それなのに、それを武器に笑いの渦を作り出す、元太。
千代子は気にするあまり、なるべく無駄な言葉を発さないようにと、心掛けるようになってしまった。
油断をすると訛りが出る。
一瞬相手の顔が、からかうような表情になる。
「もう一回言って」と言われると、顔が赤くなる。
それに対し、千代子は少しずつ冷たい態度をとって自分の身を守るようになった。
そんな日々は、周囲に、口数が少なく無口な人間という印象を与えるようになった。
元太の醸し出す空気に、千代子は顔を曇らせる。
出雲弁をみんなが笑うだけ、羞恥心は膨らむばかり。
元太という存在が、目障りになる。
やがて千代子は、孤立するようになっていった。気にかけたクラスメイトが話しかけても、うまく言葉が返せない。
それにあわせて、周囲の囁き声も耳に届くようになった。
「山田さんって、なんか冷たい人だよね」
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