あの子は出雲弁

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 出雲弁と言えば、ありがとうを伝える「だんだん」という言葉が有名ではあるが、元太や千代子の世代は、ほとんど使わない。  少しずつ言葉も変化し続けている。  だからこそ、自分では気づかないことも多い。  人に言われて初めて気づく訛りもある。  それはよけいに、千代子を傷つけた。  千代子は故郷を思い返していた。  祖母の珠代(たまよ)の言葉が頭をよぎる。 「千代子、あんたは、ほんに(ほんとうに)大人しい子だけん(だから)。ちゃんと言いたいこと言えちょうだかや(いえてるの)? 言葉は生きもんでなぁ、(おのれ)だけん(だから)。使わんと、どんどんしょげてしまーで(だめになってしまうよ)」 「大丈夫だけん。私には友だちもおるし、心配せんでもいいけん(いいから)ね!」  言葉は生きもので、自分自身。  使わないとダメになる。と、祖母の珠代は言っていた。  その言葉を証明するように、出雲弁の混ざらない、ただの返事でさえ小声になる。  実家への電話の声も次第に小さくなる。  クラスメイトからは、ますます冷たい人と思われる。  やがては実家への電話さえもしないようになった。  言葉は生きもの。  両親と電話をすると、その生きものは元気を取り戻し、千代子の口から(せわ)しなく顔を覗かせようとする。
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