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第6話
それからというもの、夜には毎日ヨハン様と東屋で会っていた。一応、まだ王の婚約者候補だった為、あまり頻繁に会うのは憚られたが、ヨハン様は会うたびに「問題ない」という。
特殊な結界を張っているらしく、周りからは見えないらしい。それでも、気になって周りを気にしていると、ヨハン様がやたら髪の毛や頬を触ってきたり、抱きしめてきたりと大変だった。
ある日、私の異変に気づいたルークが、こっそりと私の後をつけてきていたのだが、夜、出掛けることに慣れてしまっていた私は、油断していたのか、そのことに全く気がつかなかった。
東屋に入った私が見えなくなって焦ったのか、ルークが心配そうな声を出した。
「アメリア様?」
私が東屋から出ると、ルークが安心した笑顔を浮かべる。
「どこかへ行っちゃったのかと思ったよ」
「散歩をしていたのよ。なんでもないわ」
彼は、私の後ろを見ると青ざめていた。
「‥‥‥結界? 誰かと会っていたの?」
そう言えば、ルークは魔法がほとんど使えないけれど、見分けることが出来るのよね。
すると、東屋から出てきたもう1人の人物にルークは更に青ざめることになった。
「ヨハン様───」
私がそう言うと、ルークは何故か片膝を地面に着けて頭を垂れた。
「陛下。陛下とは知らずに、お邪魔をして申し訳ありませんでした」
陛下? 今、ルークは陛下と言ったのかしら?
「よい。夜中に騒がせてすまない」
「ですが、護衛もつけずに、この様なところに────」
「構わぬ。その為に、結界を三重に張っているのだ」
そんなに張ってたのね。私には、よく分からなかったけれど。でも今、陛下って‥‥‥。
ヨハン───いや、王の表情は硬く厳かで美しかった。さっきまでの、表情豊かな彼は、もうそこにはいない。
途端に、頭痛が襲う。陛下、陛下、陛下───朧気ながら思い出したのは、陛下の冷たい無機質な表情などではなく、いつも笑っている顔だった。2人でいるときは、いつも柔らかく微笑んでくれた。優しい陛下。でも、「侮られないように」って、いつも冷たい人の振りをしていたっけ。
完璧では無いものの、記憶を取り戻した私は、陛下を愛していた事も同時に思い出した。私は、陛下に向かって微笑んだ。
「ヨハ‥‥‥いえ。陛下、少しですが思い出しましたわ。私、陛下の事を‥‥‥愛しておりました」
すると、陛下は私の元へ駆け寄り私を抱きしめた。コツンと私の額に自分の額を当てると、私を見つめながら聞いてくる。
「愛していた? 今は違うのか?」
私は頬が熱くなり、『顔が真っ赤になっているだろう』と思いながらも必死に答えた。
「いえ、今でも愛しております」
イル王は私を抱きしめると、頬を寄せキスをした。
「ずっと私の側にいておくれ。もう何処にもいかないで欲しい」
「はい‥‥‥ずっと、お側におりますわ。これからも、ずっと」
顔を真っ赤にした私がイル王を見つめると、イル王は頷いた。よく見ればイル王の耳も赤くなっている。
‥‥‥すっかり、おいてけぼりになってしまったルークが、どんな表情をしていたかは、想像するに難くない。
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