第1話

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第1話

   ドルク公爵令嬢  アメリア・ドルク  それが私の名前らしかった。目が覚めるとベッドの上にいた私は、記憶を失っていた。  身体中にある傷が、何かあったのだと物語っていたが、何も思い出せない私には、何を聞いても他人事の様に感じていた。  数時間前、目が覚めた時に医務官みたいな格好をした男性から声をかけられた。 「戦争の最前線で爆裂火炎魔法(インフェルノ)を使うなんて、いくら国の為とはいえ、自殺行為だよ。だから、こんなことに‥‥‥」 「戦争に行っていた? 私がですか?」 「ああ。覚えていないのかい?」  私が頷くと、医務官の男性は近くにあるテーブルまで行って戻って来た。彼は眼鏡をかけ、綺麗な榛色(はしばみ)の髪の毛を1つに束ねていた。手には記録紙のようなものを抱えている。 「今から質問をするから、分かるところだけ答えてね。ゆっくりでいいから‥‥‥自分の名前は分かるかな?」 「名前‥‥‥私の?」 「職業は?」 「‥‥‥分かりません」  その後、いくつか質問されたが何も覚えてはいなかった。医務官の人は、私が混乱しているのに気づいたのか、途中で質問をやめてしまう。 「大丈夫だよ。少しずつ、思い出せばいいからね。私の名前は、ルーク。また来るよ」  そう言って、部屋を出ていった。誰か訪ねてきた時に困るからと、私の身分と職業を教えてくれた。  ドルク公爵令嬢で、王の婚約者候補でありながら、戦争の最前線で戦った女騎士『アメリア・ドルク』それが、私の名前。  本当かどうか、疑わしい。戦争の最前線で爆裂火炎魔法(インフェルノ)を使って生き残った?そんな嘘みたいな話を信じろと言う方が難しい。  ただ、ここが王宮内の医務室という話は、本当みたいだった。調度品1つ1つが、どれをとっても素晴らしい。  全身傷だらけ、包帯でグルグル巻きにされている自分の身体を見て、ため息を吐いた。しばらくは、動けないだろう。  指先を窓に向けると、風魔法を使って、カーテンを少し開けた。『こういうことは、覚えているんだな』と、よく分からないが、自分で納得してしまった。  窓からは、青白い月が見えた。孤独な月───誰かに似ていると、そう思った事がある様な気がした。  けれど、魔力をほんの少し使っただけで疲れてしまったのか、目を閉じると、そのまま眠ってしまっていた。
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