「妹」のチホ

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「妹」のチホ

確かに昔から妹がいたらいいなとは思っていた。 一人っ子で、二十歳になる今まで「るなちゃん、るなちゃん」と、両親から愛情を一身に注がれたことに何の不満もないが、兄弟姉妹がいる友人らの話を聞かされる度に劣等感を覚えた。 重度の人見知りなのに大学で女性アイドル研究サークルに勢いで入ってしまうほどかわいい女の子が好きなので、ドラマや映画に出てくる女優やアイドルを見て、こんな妹がいたらと妄想したりもした。 しかし、ある日突然、当たり前のように家に部屋があり、両親も昔から知っている「謎の妹」が登場するという事態を、手放しで喜べるはずもなかった。 「お兄ちゃん、何してるの?」 「だから、私は女!色気ないって言いたいわけ?」 部屋のPCで大学のリモート授業を終えて一休みしていたタイミングで、「妹」がノックもせずに入ってきた。 小柄な私より背が高く、すらりと手足が長いスレンダー体型で、瞳がくりくりと大きく、ロングヘアーを今日はハーフアップにして、私のジェラピケの部屋着を勝手に着ている「チホ」。 「そういう意味じゃないよー、お兄ちゃん」 「はー。もう突っ込む気にもなれんわ」 そう。彼女は特に何の記念日でもない梅雨晴れの日に突如として家に現れ、私以外の全員が知っている「妹」だ。 私が「誰?あなた」といくら問い詰めても「忘れたふり?ひどーい」とはぐらかされ、両親にも「つまんないよ、そのギャグ」と否定され、挙げ句、家族のアルバムに、私の記憶にないチホとの写真が大量にあるのを見せられて、頭がおかしくなりそうだった。 「あれでしょ?ドッキリ番組。そういうのでしょ?」 言ってみたものの、ネタバラシは一ヶ月経ってもされず、家をくまなく探してみてもカメラはみつけられなかった。 チホは甘え方を心得ている、まさに私が理想とする妹を完璧に演じて(?)くれて、どういう訳か、どう見ても女性にしか見えない(はず)の私を「お兄ちゃん」と呼び続けるという謎のこだわり以外は、本当の妹なのではと錯覚するほど、家に馴染んでいた。 「……ねえ、チホ。あんた本当は宇宙人で、ウチに紛れ込んで人間の調査してるんじゃない?」 「えーなにそれ?SF映画でも見た?」 「目的を言いなさいよ」 「お兄ちゃんて、そういう話好きだよね。オカルトとか陰謀論とか」 「好きじゃないけど、そうとでも考えないと説明が………」 出現から3ヶ月が経ち、今話したようなオカルト論。もしかしたら私の頭のほうに問題があって、ずっと一緒だった妹のことを脳が忘れているのでは説など、様々な可能性を探ったが答えは出なかった。 実際のところ具体的な弊害がなく、完璧かわいい妹のチホがいる生活は楽しく、考えるのも面倒になってきていた。 そんなある朝、あの2人が来た。
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