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負けないで
いい出来だ。
自分の身長と大差ないフラッグは弧を描き、空中に舞い上がる。佳境に入った音楽に誘われるようにして、一糸乱れぬ動きをするフラッグは美しい。背景には緑の木々と東京の青空が映る。
場所は東京、オフィス街の中にある日比谷公園。霞が関の官庁街は目と鼻の先、オフィスが集まる丸の内だって徒歩圏内だ。都心にあるにも関わらず喧騒は少なく、緑に包まれた園内にいると時間が過ぎるのがゆっくりと感じられる。園内にはテニス場や有名な日比谷公会堂、大・小二つの音楽堂に日比谷図書館もあり結構な広さを有している。
そんな日比谷公園の小音楽堂で水曜、午後十二時から行われているのが警視庁音楽隊による水曜コンサートだ。
七月半ばから八月の夏季期間を除く四月から十月まで、ほぼ毎週水曜日に開催されている。クラシックから歌謡曲、J‐POPにゲーム・アニメソングとレパートリーは幅広い。
今、音楽隊の演奏を背景にフラッグ演技をしているのは警視庁カラーガード隊・MECだ。音楽隊の隊員が全員警察官であるのに対し、MECは警察官と警察職員の女性で構成されている。
MECの一員である私、久遠未祐は警察職員だ。この四月の異動で警視庁本部総務部業務支援室に異動になった。異動自体は珍しいことではないが、少々異例を含んでいる。
音楽隊、MECともに所属は総務部広報課だ。本来であれば、同じ総務部といえど業務支援室の私がMECになることはない。今回は広報課に異動希望を出していた人員を異動させようとしたところ、MEC候補者の妊娠や退職、前年異動したばかりとMECとして異動させることができる人員がいなかった。私が所属する業務支援室でも、これから産休に入る職員がいるため、業務支援室としても人がほしい。
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