負けないで

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 いけないと思ったものの、松田さんの割れた頭から脳みそが漏れる映像を思い浮かべてしまう。絵的に美しいものではない。むしろモザイク処理しないとトラウマになりかねないレベルだ。知っている人ならなおさら。  思い浮かべた映像を消そうと首を軽く振る。大きく首を振って浮かんだ映像を消したいところだが、事情を知らない人からすると何事かと思われてしまうため気をつけなければならない。 「本物見たら冗談でも言えませんよ。……どうした?」  苦しげにつぶやいた松田さんが怪訝な声を上げる。声の先にいるのは想像した映像を消そうと首を振る私だ。 「いえ、何でもないです。あ、すいません」  何でもないことをアピールしようと体の前で両手を振ると、思いがけず右手が松田さんにぶつかってしまう。まずいと思った次の瞬間、頭の中に映像が流れ込んでくる。 「交番勤務で轢死見たんだったな」  桧垣さんの言葉に悲鳴をあげそうになる。これから流れてくるのはその現場の映像だ。  階段を駆け下りている人の黒い革靴が見える。紺色のパンツに黒い革靴。前を行く警察官の後を追っているのは松田さんだ。見覚えのある構造の駅だなと思っていると、電車が止まっていて、高校時代に使っていた路線であることがわかる。  ホームの中途半端な位置で停車している急行電車、悲鳴とどよめき。線路から目を背ける女性、口元を押さえてホームに座り込んでいるセーラー服姿の女の子、電車内の乗客たちのこわばった表情。  だめだ。これ以上近づいてはいけないと思うのに、脳内に浮かび上がる映像はより現場に近づこうとする。事故か自殺か、直視できないご遺体でも現場に駆け付けた以上、見なければならない。それが警察官の仕事だ。 「久遠さん、大丈夫?」  久我原さんの声が遠くから聞こえる。
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