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(確かアルサの情報をもとに鬼の集落を目指していて、その途中で夜襲をかけられて……)
「ソライたちをどこにやった」
先ほどまでの弱々しい姿はなく、殺気立ったジャンが戦闘態勢に入った。
「ちっ、こいつもか」
鬼は苛立たしそうに舌打ちをする。
「答えろ。ソライたちをどこにやった」
「答えなくても、すぐに連れて行ってやるよ」
鬼が地面を蹴る。早いがジャンほどではない。ジャンは突き出された拳を避け、無防備な腹に蹴り入れで吹っ飛ばした。
鬼が壁に当たり、ガシャーンと大きな音がする。壁に立てかけてあった木材がガラガラと崩れ落ちる。
「もう一度聞く。ソライ、アリア、アン、アヴェルスをどうした?」
壁に打ち付けられぐったりとしている鬼に近づき、その首をつかんだ。本当は胸ぐらにしようとしたが服を着ていないため仕方がない。
鬼は下を向いたまま余裕ぶって言う。
「はっ、知りたいか?」
その小さな声に苛立つジャン。
「早く答えろ!」
顔を近づけたその瞬間、鬼が顔を上げた。両目が赤く光っていた。
「しまっ……」
魔眼。魔族特有の能力で、その内容も様々。ジャンの体が石にされたかのように動かなくなる。
「お返しだ」
鬼の拳がしっかり腹に食い込む。重たい一撃に、ジャンは吹っ飛んだ。
「はっ」
しかし体を捻ってアンから教わった呼吸法で痛みを分散させてダメージを減らし、かつ宙で体制を整えてしっかり着地する。
「お前もかよ。なんで魔眼を破れるんだ」
お前も、ということはソライたちもそうだったのだろう。答えは簡単。アヴェルスと特訓していたから。
(まぁあれは遊びであってこんな実践的な形になる予定はなかったんだけど……)
ジャンはもう一度地面を蹴る。
「おっと、それまでだ」
横から聞こえた声にぴたりと動きを止める。ふとそちらを見ると、別の鬼が先ほど怒られていた人間の首に鋭い爪を突き付けていた。
「動くな。おとなしくしなければこいつを殺す」
「ひっ……た、たすけ……」
ジャンはその男に見覚えがあった。前に獣人の町に攻撃を仕掛けてきた兵士だ。『欠落者』に気づき真っ先に賞金首を刈ろうとした奴。アリアが知らない土地にワープさせたはずだが。
「たまたま鬼の集落から近かったのか。運が悪いなぁ」
「何をごちゃごちゃ言っている」
人間は、敵。
どれだけソライと一緒にいてもその感覚はジャンの中から抜けきっていなかった。両親を殺したのも、企てたのはあのクソ村長だとしても自分の両親や友達を手をかけたのは人間だ。
別に、見放してもよかった。
「はぁ」
ジャンは両手を上げた。降伏のポーズだ。
「わかったよ」
自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だった。
(それに、さっきの鬼が居場所を聞いたときにすぐに連れて行ってやるって言った。多分、同じところに送られるはずだからここはおとなしくしてるのが最善だろうな)
「それでいい」
鬼はニヤリとして、人間を離した。すぐに逃げる人間をしり目に、ジャンはまた大きくため息をついた。
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