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鬼は魔族の中でも知能が低い。基本強い者が偉い弱肉強食の世界で、野蛮児と呼ばれることもある。その代わりずば抜けた身体能力を持って滅びずにここまで来ていた。
それがこの変わりよう。思い当たるヒーローは一人しかいなかった。
「これやりだしたの、ヴァルなんでしょ?」
「はい、その通りでございます」
ヴァルシアは特別だった。特殊な魔眼を持ったが、身体能力は言うほど高くない。その代わり頭がよかった。戦略的、司令塔。まさにそんな感じである。アヴェルスとは正反対の双子の妹。
「あちらです」
見えてきたのは大きな家だった。藁の屋根に木を組み合わせて作っている他の家とは違い、ちゃんとしたコンクリートで出来ている。
「凄いね」
アヴェルスは無意識に舌なめずりをした。
「アヴェルス様」
リースが進むアヴェルスに声をかけ、彼女は振り返る。
「なぁに?」
「ヴァルシア様は、アヴェルス様がいなくなってからより一層魔眼を使う戦闘を磨いてきました」
リースの瞳が鋭く光る。
「決して、傷つけることのないよう。よろしくお願いいたします」
「それって、アーヴェがヴァルシアを殺そうとしてるって思ってる?」
アヴェルスの直球の問いに、リースは頷く。アヴェルスはあははっと声を上げて笑った。
「そんなことしないよ。だって……」
アヴェルスは珍しく大人っぽい顔で笑っていた。
「アーヴェはお姉ちゃんだから」
二人はしばらくの間、対峙し続けた。先に目をそらしたのはリースだった。
「さようでございますか」
アヴェルスは頷き、家へと入っていく。
「ご無事で」
リースの言葉は、アヴェルスか、はたまたヴァルシアに向けられたものだったのだろうか。
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