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 僕が彼女と出会ったのは二年前。 「酒場に新しいメニューが追加されたらしい。でっかいステーキだってよ」  街で聞いた話を思い出しながら、僕は暗い森の中を進んでいた。  件の酒場はどの料理もかなり大きいサイズで有名だ。にもかかわらず、その店の常連が「でっかい」と言ったのだ。どんだけでかいんだ。気になる。  そんなことを考えながら、(くるぶし)ほどの高さの細長い葉を踏みしめて歩く。時折飛び出してくる光虫に釣られて空に目を遣ると、月は無く、闇から見る星々は一際眩しい。  この麗しく広大な世界――『トラクトサイト』には様々な生き物が存在する。    半透明の翅から光の鱗粉を散らし空を舞うピクシー。  形状不定の柔軟な身体を持つスライム。  鉱石の頭部を破壊されない限り再生を続けるゴーレム。  そして一振りで竜巻を起こす大きな翼と強靭な体躯、獰猛な性格を併せ持つドラゴン。    他にも多種多様な生き物が存在するが、その中でもドラゴンは特に人々に恐れられ、定期的に討伐依頼が発生した。その危険度から非常に高額な報酬を支払われたため、ドラゴン討伐を主な収入源とするドラゴンハンターと呼ばれる者も現れた。  さらに近付くことすら危険なドラゴンの素材は、どの店でも高額で取引される。それこそ『でっかいステーキ』何個分にもなるだろう。 「ってわけで、今日の夕飯はステーキだ」  森の中にぽっかりと開けた空間には、頭上に広がる夜空のような深青色の鱗を纏ったドラゴンが立っていた。その口内からは青い火炎が漏れ出ているのが見える。  僕はステーキのことは一旦置き、右手の長剣を構えて標的の動きに備えた。 「――――!」  ドラゴンが蒼炎を吐き出した隙を突いて足元へ回り込み、脚部を攻撃し機動力を奪う。そして転んだ拍子に鱗の薄い腹部を斬りつける。  その動作を何度も繰り返し、斬る、斬る、斬る。  これが僕のドラゴン討伐テンプレート。  この日も問題なく標的を瀕死に追い込み、最後は頭部への一刺しで止めを刺す。  はずだった。 「はい、ストップ」
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