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「え、はやい。いつからいたの」 「昨日から」 「うそでしょ。寝てないの?」 「世界が終わるのに寝てらんないよ」 「夢すら見ずに熟睡したんですけど」  湖に延びる桟橋の上で、昨日と同じ位置で座っていた僕に、背後から現れた彼女は言った。  二年前にサクサと出会ったあの日から、僕はドラゴンハンターを辞めて釣人として生きていた。その名の如く、湖で釣った魚で生計を立てる。  収入は減ったが、装備を整える必要もなくなったので細々と過ごす分には問題はなかった。 「で、アヤトは徹夜で何してたの」 「眺めてたんだ。変わってく世界を」  雲が流れ、陽が落ちて、星が瞬き、そしてまた陽が上る。時間の経過とともに少しずつ色の変わっていく光景をずっと見ていた。この美しさに気付かせてくれた感謝を抱えて。 「暇なんだね」 「悠々自適と言ってくれ」  僕がそう言うと、彼女は笑いながら僕の隣に座って釣り糸を垂らした。水面には魚の影はなく、波も立たない。   「こんなに穏やかな世界が終わるなんて信じられないね」 「むしろ穏やかだからとも言える」 「そうでした」  彼女は苦笑しながら「なんでみんなこの美しさに気付かないのかなあ」とぼやく。 「僕も君に会わなきゃ気付けなかっただろうから何も言えないな」 「あら、告白かな?」 「世界の終わりに告白なんて月並みな」  きっともう僕たちしか残っていない世界は二人の会話を静かに聞いている。 「でも、僕はこの世界の美しさに気付かせてもらって本当に良かったよ。一晩かけて見納めることもできたし」 「そっか。じゃあもう心残りはないね」 「うん。……あ」 「あ?」  どこから出したかわからないような頓狂な声の彼女に僕は言った。 「ひとつだけあった」
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