27人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「でっか!」
丸い木のテーブルに乗せられた大皿とその上に乗る巨大な塊肉ステーキを見てサクサは驚きの声を上げた。彼女が膝を抱えて丸まれば、すっぽりと包み込まれてしまいそうなサイズだ。
「うわー噂には聞いてたけど、こんなにでっかいとは」
「さすが『でっかいステーキ』って名前だけはあるね」
「まさか商品名とはな」
「名に恥じなさすぎでしょ」
トラクトサイトの街にある唯一の酒場。昔はたくさんの人で賑わっていたが、今の店内には僕たちしかいなかった。
こんがりと焼きあげられ肉汁の滴るステーキをノコギリのようなサイズのナイフで切り分け食べる。湯気の立つ肉を平らげると、彼女は木の椅子に座ったまま手を合わせた。
「でもよくこんなお金あったね。どれだけ釣ったの」
「いや、剣を売ったんだよ。結構いい額になった」
「ハンターの時の? まだ持ってたんだ」
「お守りにね。でももう必要ないから」
「そうだよね」
この世界はもう終わるから。
二人とも言葉にはしていなくても、確かに聞こえていた。
「あ、やばい。あと30分しかないよ」
椅子に座って空の皿を見つめたまま、慌てるような声で彼女は言う。
「え、もうそんな時間か」
「他に何かしておきたいことはある?」
「ステーキも食べたし、僕はもう心残りはないかな。サクサは何かないの?」
「うーん、そうだなあ。……あ、これはまあ心残りってわけじゃないんだけど」
彼女は椅子から立ち上がる。ガタっと音を立てて椅子が床を擦る。
そのまま出口に向かいながら、彼女は肩にかけた革袋から拳大の石を取り出した。
「最後は青空で話そうよ」
最初のコメントを投稿しよう!