27人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の声が僕の耳に響く。
真っ白な鱗の上に座る彼女は前だけを見つめている。
「私たちにそんな奇跡が起こったとして。こことは違う世界で、顔も名前も違ってさ。それはもう全く別の存在だよ。絶対に同じ関係にはなれない」
淡々と、彼女は言った。
湖面に波も立たないような静かな声で。
「だから」
まるで自分自身に言い聞かせるように。
「だから、やっぱり世界は終わるんだよ」
彼女の言うことは正しい。今までの仲間たちもそうだった。
この場所から離れた途端、僕たちは二度と交わることはない。
だとすれば、なんて儚い関係なんだろう。
時計を見る。
あと数分ですべてが終わる。この理想の世界も、僕たちの関係も。
なかなか悪くないなんて、そんなわけがなかった。
「……サクサ、本当に今までありがとう」
「あはは、しんみりしちゃうなあ。でもまあ私も楽しかったよ。ありがとうアヤト」
青空を白く切り裂きながら、彼女は穏やかな声で言った。
「最後まで、いつも通りにあなたがいてくれて良かった」
動かない釣り糸を見つめる彼女の横顔をふと思い出す。
――いつも通りが一番幸せ。
「月並みでごめんね」
それを最後に、すべての音が無くなった。
最初のコメントを投稿しよう!