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『岩崎 志津様
お身体の調子はいかがでしょうか?
出産はさぞかし大変だったでしょう。
あおによし、なんて言葉は……語ろうと思いましたがやっぱりやめます。自分の無学さが分かってしまうだけだとおもうので。
あなたが元気だったらそれでいいんです。
篠崎 鉄男』
華子は夢に見た光景を思い出していた。
しかしなんとも鉄男らしい愛想ない内容だ。きっと、女性に想いを伝えるなんてこと、初めてだったんじゃないかしら?
その手紙に対して、志津は〇〇日お伺い致します、と返事を書いていた。
どうやら2人は逢瀬を果たしたらしい。
なんだか、人の恋路を覗き見ているようでちょっと申し訳ない気持ちにもなったが、華子はめくる手を止められなかった。
『岩崎 篠崎様
先日はこちらまで来ていただき、ありがとうございました。
今日、厚木夫妻に会ってきました。
やはり会社を解雇されたことは大きかったようで……これからは少しでも自分が助けたいと思います。
そうです、以前話していたお金を仕送りしたいと申し出ました。断られましたが、これは貴女のお子さんの為であり、自分の為でもあるのです。産まれてきた生命に感謝ですから。こんな時は、助け合わないといかんと思うわけです。┈┈┈┈┈┈』
華子は、絶句した。
まさか、あの鉄男が。
あの舅がこんな気持ちを持っていただなんて。華子の知らない舅の顔だった。
恭太の方を見ると、なんとも言えない表情をしている。
そして、また読み進めた。
『┈┈┈┈┈今度お逢いしたときに渡したいものがあります。』
あの鉄男からは想像し難い文章だ。
それに対し、志津はこう返事をしていた。
『私もあなたにお会いしたい気持ちでいっぱいです。早くあなたの元へと駆けつけたいのです。あの経験は辛い思いも沢山したけれど、あなたという男性にこうやってお逢いすることができました。神様に感謝しております。』
志津の気持ちも募っていったのが見てとれた。華子と恭太は無言でめくった。
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