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『岩崎志津様
恭太くんが、少し身体をこじらせたようです。でも心配ありません。いい医者を紹介しましたので。
きっと、良くなります。
では、またお会いする日まで
篠崎 鉄男』
あとは他愛もないものを含め、手紙は10枚ほどあったが、お互いの結婚に向けてのことが中心に書かれてあった。
華子は信じられない思いと、恭太がここに来てくれた今という時間に対して不思議な感じを味わった。
まるで広大な宇宙の中で、さまよい続けた小さな塊が、いや、小さなホコリほどのものが合わさり会う、そんな感覚だ。
奇跡だと思った。
「おれ……」
恭太が、口を開いた。
華子は彼の顔を見る。
「俺、愛されてたんだなって……いま、実感してます」
「厚木さん……」
「割り切ってたけど、感謝してたけど、どこかで孤独だったんです。……本当に篠崎さんには感謝です……」
恭太の目には涙が滲んでいるように見えた。
本人は顔を反対方向に向けてしまう。
「厚木さん。私もあなたにお会いできて良かったです」
その言葉に恭太は振り返った。
目が赤い。
「だって、彰男さんのお兄さんだもの。私は一人ぼっちになってしまうところでした。……こうして、まさか影で義父が命を繋いでくれてただなんて、想像しませんでした」
「ほんとですね」
「そう。ほんとに。あなたは義父さんが遺してくれた大きな遺産です」
ふふっと笑う。
二人の間で穏やかな気持ちが流れた。
それは人生の中で幾度とない、決して全ての人が持たない奇跡に近い瞬間だったのだと思う。
そのあとは、例の通帳を恭太にも見せた。
最初は分からなかったが、最後の「済」と書いた時には……鉄男は、一体どんな気持ちだったのだろうか。
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