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愛の景色を
┈┈┈┈初夏の季節になった。
風が薫るような季節の中、ツツジが咲き乱れる校門を通り、校長室へと向かう華子の姿があった。
「失礼いたします」
校長室には、支援級の先生と小夜の担任、そして学校長が揃って迎えてくれた。
「篠崎さん、どうも。はじめまして……」
この日は、小夜の進路に関しての話を聞きに華子は足を運んだのであった。
本人の意向通り、支援学校の高等部へすすむこととなった。そこでは勉学よりも就職に向けてわりと厳しく指導される。
だけど就職率は立派なものだった。
小夜はそれを希望したのだ。
「本当に、これで宜しいのでしょうか? 」
学校長が尋ねる。
華子は、微笑みながら言った。
「はい。これは亜由美夫人と何度かお話しましたので。確認済です」
亜由美は、あれからしばらく実家へと帰り、精神病院へ通う日々が続いていた。本人はまだ、現実を受け入れて毎日を戦うには心の整理する時間が必要だ、と結論づけて恭太と華子に小夜をお願いしたいと言ってきたのだった。
「小夜ちゃんのためにもそれがいいと思いますわ」
支援級の山岡先生が口を開いた。
「あの子は特別な絵の才能がありますし。子供はそれぞれ個性ですから。社会に出るのに勉強だけが必要なわけではありません」
「ええ。私もそう思います。高等部での小夜ちゃんの成長を見守りながら、もし本人がその道に進みたいと言ったらそれも検討するつもりです」
先生方は、顔を見合わせた。
「いやー、良かった。本当にこういう話になって良かったです」
「我々もたくさん考えさせられるべき点が多くて……でもその言葉を聞いて安心しました」
「はい。できる限りのことを精一杯やりたいと思っています。先生方には大変お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
華子は頭を下げた。
小夜のために今できることを精一杯やりたい、それが今の本当の気持ちだった。
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